翌朝、部室の戸を開けた真白は、まず床に散らばった殻の欠片を見て固まった。昨日まで議論の道具にすぎなかった卵が、今は小さな命の存在を確かめるための実物になっていた。蒼が段ボールの囲いを補強し、奏は餌の配分を手帳に書き込み、悠は廊下で見つけた古い新聞紙を敷き詰めている。ニワトリはその真ん中で落ち着きなく歩き回り、ときおり鋭い目で部員たちを見上げた。その視線だけで、部室の空気は妙に引き締まる。 討論は自然に別の方向へ伸びていった。卵かけご飯がぜいたくかではなく、そもそも食べ物を当然のものとして口にしてよいのか。奏は、卵はひとつ生まれるまでに多くの手が必要だと静かに言った。蒼は、朝の食卓にのぼる一杯が、誰かの早起きや運搬や飼育の積み重ねでできているなら、安さだけで切り捨てるのは違う気がすると続けた。真白はうなずきながらも、ありがたさを語るだけでは弱いと感じていた。言葉が綺麗でも、腹の底に落ちなければ弁論にはならない。 そのとき悠が、唐突に湯のみを置いた。けれど結局、一番先に鳥の世話を失敗したのは自分だった、と肩を落とす。水入れを倒し、餌の量を間違え、慌てて拾い集めるうちに、ありがたさを知るにはまず面倒を見るしかないのだと身をもって理解したらしい。真白は思わず吹き出し、蒼もつられて笑った。笑いが収まるころには、互いの言い回しの癖だけでなく、譲れない線まで少し見えていた。 昼休み、噂は校内を駆け抜けた。弁論部が裏庭の鳥を飼っている、と。見に来た生徒たちは最初こそ珍しさで集まったが、やがて部員たちの議論に耳を傾けはじめた。卵の値段の話から、朝食を囲む家族の事情、ひとり暮らしの台所、忙しさに追われて食事を流し込む自分の癖へと、話題はどこまでも広がっていく。真白はそこで初めて、卵かけご飯の豪華さを論じていたはずなのに、実際には日常を雑に扱わない言葉を探していたのだと気づいた。 夕方、ニワトリは窓辺に寄り、差し込む光の中で羽をふるわせた。まるで次の答えを急かすように。
卵かけご飯論争部
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