エラベノベル堂

秘密結社の便利屋

全年齢

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1章 / 全10

薄い蛍光灯が、古いコンクリートの天井を青白く照らしていた。地下に作られた会議室は、机の脚が少し傾いていて、置かれた湯のみも微妙に揺れる。そんな安っぽい揺れの中心で、秘密結社の幹部たちはそろって沈黙していた。 「……で、今月の残高が、これか」 会長が紙束を指で押さえた。予算表には、赤字の数字がまるで呪いの文字みたいに並んでいる。 「紙の質がいいのが、腹立たしいですね」 副長が乾いた声で言う。冗談に聞こえないのは、誰の顔にも余裕がないからだった。 「偉そうなことを言う前に、家賃を払えって話だ」 「地下だから安いと思ってたんですけどね」 「安いのは場所だけで、胸の痛みは別料金だな」 苦笑がひとつ漏れて、すぐに消えた。笑えば解決する空気ではない。机の端には未使用の仮面、黒い布、謎めいたロゴ入りの封筒まで並んでいる。どれも、いかにも危険そうに見せるための小道具だったが、実際にはただの在庫の山だった。 「本格的な悪事、やるしかないんじゃないか?」 誰かがそう言っても、即座に返事はなかった。沈黙のあと、会長が肩を落とす。 「無理だろ」 「無理ですね」 「無理だな」 三人目の幹部までうなずいた。悪の組織を名乗ってはいるが、彼らはまだ誰も踏み越える覚悟を持てていない。せいぜいできるのは、怪しい雰囲気を演出することくらいだ。そしてその演出も、近所の子どもに見られたらすぐに台無しになる程度のものだった。 「じゃあ、どうするんです」 若い幹部が、机に突っ伏したまま言った。 会長は紙の端をめくり、赤字の列を見つめる。あまりに現実的な数字が、地下の秘密をいとも簡単に暴いていた。 「……とりあえず、ため息を減らす方法から考えるか」 「それ、資金は増えないですよね」 「増えないな」 「詰んでますね」 そう言いながらも、誰も席を立たなかった。怖がられるはずの組織が、怖いことに一番怯えている。そんな滑稽さが、暗い会議室の隅でじわじわと膨らんでいく。 会長はもう一度、予算表を見下ろした。悪事に踏み出せないまま資金だけが尽きていく。その行き止まりの先で、彼らはまだ気づいていない。ここから始めるのが、結局いちばん危ういということに。

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