最初の依頼は、駅前の古い案内板を直してほしいというものだった。黒曜会は拍子抜けしたが、だからこそ気楽でもあった。夜のうちに作業を終え、翌朝には何事もなかったように立っている。だが、ただの便利屋では面白みに欠けると、彼らは黒い外套に揃いの手袋、そして妙に仰々しい名乗りを添えた。困りごとを解くために現れる、正体不明の集団。演出だけはやけに本格的で、それが町の好奇心を刺激した。 冬真は帳簿を睨みながら、需要を読み違えないよう依頼の種類を整理した。荷物運び、模様替え、空き家の掃除、行方不明の飼い猫探し。どれも大それた仕事ではない。だが、誰かにとっては一日を救うほど切実だった。力仕事に強い構成員は驚くほど丁寧で、聞き取りが得意な者は相手の言葉にならない不安まで拾った。秘密結社のくせに、やたら人の話を聞く。そんな評判が少しずつ広がる。 ある雨の日、商店街の軒先で途方に暮れていた若い店主は、黒曜会の名を聞いて目を丸くした。数時間後、詰まっていた事情も気まずさも、きれいに片づいていた。互いに顔を合わせづらかった親子が、翌週には同じ店で並んで笑うようになったこともある。黒曜会は金を得るつもりで動いていただけなのに、気づけば町のあちこちで、止まっていたものが少しずつ動き出していた。 会議室に戻るたび、壁際の古い機械が心なしか機嫌よく唸っているように聞こえた。予算表の赤字はまだ消えない。それでも、依頼の山と引き換えに、机の上には確かな収入が積み上がる。誰かが口にした。これなら存続できる、と。別の誰かは、それだけではなく、なぜか妙に楽しいのだと認めた。悪事を考えるより、人の役に立つほうがずっと頭を使う。そして、そのほうがずっと稼げる。黒曜会は、世界を少しだけ良くしてしまう商売の始まりに、まだ気づききれないまま笑っていた。
秘密結社の便利屋
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