翌日になっても、地下会議室の空気はあまり変わらなかった。変わったのは、机の上に積まれた予算表だけで、赤字の数字は昨日より少しだけ目に刺さる気がした。 「このままだと、来月の灯りも怪しいな」 会長が蛍光灯を見上げながら言う。若い幹部が、ひっくり返った書類をそろえつつうめいた。 「もう、怖がらせる路線は諦めますか」 「諦めるというより、向いてない」 副長の一言に、全員が妙に納得してしまう。 倉庫へ移動したのは、決め手になる道具を探すためだった。だが棚に並んでいたのは、使い道のわからない黒い布と、妙に安っぽい箱だけだ。 「仮面も脅し文句も、今のうちに捨てましょう」 若い幹部が言った。 「捨てるって、結社の顔を全部捨てるのか」 「顔が怖くないなら、別の顔を作ればいいんです」 会長が首をかしげる。副長が腕を組み、しばらく黙ってから、ふっと息を吐いた。 「……宣伝ですか」 「宣伝?」 「怖く見せるんじゃない。役に立つように見せる。謎の団体だけど、便利なサービスをやっている、と」 部屋の空気が一瞬止まり、次の瞬間、誰かが机を叩いた。 「それだ!」 「脅しの代わりに、安心を売るのか」 「秘密結社なのに?」 「秘密だからこそ、便利だと目立つかもしれません」 誰もが半信半疑だった。だが、怖くない宣伝ならできる気がした。むしろ、今までの怪しさが邪魔をしていたのだと、ようやく気づく。 会長は棚の端に残っていたロゴ入りの封筒を手に取り、表面を見つめた。 「じゃあ、名前も使い方を変えるか。謎の団体が作る、便利なサービス……悪くない」 「悪くないどころか、かなり商売っぽいです」 「商売っぽいなら、資金も集まるかもしれませんね」 その言葉に、全員の目つきが少しだけ変わった。怖がられるための演出をやめるだけで、こんなにも道が見えるとは思わなかったのだ。 外では昼の光が倉庫の隙間から差し込み、埃を金色に浮かせている。会長はその光を見ながら、ゆっくり口角を上げた。 「よし。まずは、何を売るかじゃない。どう見せるかだ」 誰かが小さく笑った。 まだ何も始まっていないのに、妙にうまくいきそうな気配だけが、倉庫の中に静かに満ちていった。
秘密結社の便利屋
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