エラベノベル堂

秘密結社の便利屋

全年齢

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10章 / 全10

月末の式典会場は、白い照明に包まれていた。会長は黒布の袖を引っ張りながら、壇上の横に積まれた封筒の束を見て目を細める。 「……多すぎないか」 「多すぎますね」 副長が淡々と答えた。若い幹部は、金額の書かれた明細を二度見して、声を裏返す。 「目標額、超えてます。しかも、かなり」 「かなり、じゃない。笑うしかない額だ」 会長はそう言いながらも、手が少し震えていた。予算表の赤字に怯えていた頃が、急に遠い昔みたいに思える。 司会の合図で、協力者名簿が読み上げられる。商店街、近所の住民、配信を見ていた人、清掃に手を貸した親子、相談に救われたという会社員。さらに、どこかの街の団体や見知らぬ個人の名まで並び、会場の空気が静かに熱を帯びた。 「これ、本当にうちに集まったのか?」 「集まりました」 副長が頷く。 「悪事のつもりが、完全に善行の連鎖ですね」 「連鎖って言うな。怖いだろ」 若い幹部が名簿を抱え直し、妙にまじめな顔で言った。 「でも、怖いのは中身じゃなくて、結果ですよ。こんなに感謝が続くなんて」 会長は壇上を見上げた。拍手の前に立つのは、自分たちなのに、まるで街全体が先に答えを知っているみたいだった。 式辞の途中、紹介されたのは寄付金だけではない。次回の清掃協力、見守り活動への参加、相談窓口の紹介、配信への支援申し出まで、ぎっしりと詰まっている。 「秘密結社なのに、名簿まであるのか」 「もう秘密じゃありませんね」 副長の小声に、会長は苦く笑うしかなかった。 そのとき、会場の後ろから誰かが控えめに手を振る。以前、占いで眠れるようになったと言っていた人だった。別の席では、子どもが仮面の絵を掲げている。 「……なんだよ、これ」 会長がつぶやく。 「俺たち、悪者になるはずだっただろ」 「はい」 「なのに、世界をよくする秘密結社って、なんだそれ」 副長は少しだけ目を伏せた。 「役に立つことを重ねたら、そう呼ばれただけです」 若い幹部が、名簿の最後を見て息を呑む。 「しかも、伝説扱いですよ。もう、静かに広まってる」 「静かにって、いちばん厄介だな」 会長は頭を抱えたが、口元は隠しきれなかった。最初に怖がっていたのは自分たちだった。ところが今は、その自分たちが一番取り残されたように驚いている。 司会が最後に、祝福の言葉を締める。 「これより、感謝状と寄付金目録をお渡しします」 その瞬間、会場いっぱいに拍手が広がった。会長は受け取った目録の重みを両手で感じながら、ぼうぜんとつぶやく。 「……こんな形で、伝説になるとはな」 「まあ、悪くはないです」 副長の声に、会長は横目で見た。 「全然悪くないだろ」 「ええ。かなり平和です」 会長は苦笑したまま、目録を胸に抱え直す。仮面の影の下で、誰かがまた笑った。秘密結社は、世界をよくする秘密結社として、静かに語り継がれていく。その中心で、いちばん驚いている本人たちだけが、まだ現実を飲み込めずに立ち尽くしていた。

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予算不足の秘密結社。資金を稼ぎたいが、悪事をする勇気もない。予想外の稼ぎ方を思いつき、なぜか世界は良い方向へ向かってしまうコメディ。

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