夕方の商店街は、夕飯前の匂いと買い物客の声でほどよくざわついていた。その一角に、黒い布をかけた小さな机が置かれる。怪しさを狙ったはずなのに、妙に落ち着いた雰囲気になってしまい、会長は看板の文字を見て眉をひそめた。 「失敗しない占い屋、って……もう少しそれっぽくならないか」 「それっぽくしたら、怖がられますよ」 副長が即答する。 「今回は当たり障りなく、でも役に立つ。そこが肝です」 若い幹部が水晶玉の代わりに安いガラス玉を置きながら、得意げに胸を張った。 「悩みを煽らず、背中を押すだけです。たぶん」 たぶん、の一言がやけに不安だったが、始めてしまえば戻れない。最初に座ったのは、仕事帰りらしい疲れ顔の会社員だった。 「最近、何をしても空回りしてて……」 「それは頑張りすぎです」 若い幹部が、紙に書いた文を読む。 「今日は大きな決断をしない。細かい確認だけする。あと、眠る」 「あ、はい」 あまりにも普通で、会長は思わず顔をしかめた。だが客は、なぜか少し目を丸くして、それから肩を落とした。 「……そうか。確認、最近してなかったな」 次の客は、恋愛のことでぐるぐるしている様子の女性だった。 副長が少し考えてから言う。 「相手の言葉を待つより、自分の気持ちを一度言葉にする方がいいですね。急がなくて大丈夫です」 「急がなくて、いいんだ」 その声は、机の向こうでふっと軽くなった。 一人、また一人と立ち寄り、列ができ始める。相談はどれも重そうなのに、返す言葉はやけに穏やかで、だからこそ刺さりすぎない。会長は客の背中が少しだけ伸びるのを見るたび、納得のいかなさと手応えが同時に増していくのを感じていた。 「なんで当たるんだ……」 「当たるというより、外さないんです」 副長が小声で返す。 「人は、きつい答えより、ちゃんと聞いてもらえた方が落ち着く」 若い幹部が帳面に数字を入れながら、目を輝かせる。 「見てください、売上、もう黒字です」 「黒字って言うな。縁起がいいみたいで腹が立つ」 そう言いながらも、会長の口元はわずかに緩んでいた。稼げた。しかも、客は怒っていない。 それどころか、机を離れるころには表情が少し晴れている。悩みが完全に消えたわけではないのに、胸の結び目だけがほどけたようだった。 最後の客が帰ったあと、商店街の灯りの下で、幹部たちはしばらく黙っていた。 「……なんか、儲かったな」 若い幹部がつぶやく。 「儲かったな、じゃないだろ」 会長は腕を組んだまま、店先に残る余韻を見送った。 「占いで人を軽くして、こっちも軽くなるなんて、変な話だ」 副長が机の上のガラス玉を指先で転がす。 「でも、悪くないでしょう」 その一言に、会長は否定できなかった。黒い布の向こうで、誰かが笑った気がした。次の相談を待つ列は、まだ少しだけ続いている。
秘密結社の便利屋
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