依頼の増え方は、黒曜会自身の予想をいつも少しだけ超えていた。商店街の掃除を終えた翌週には、空き家の片づけを頼まれ、その次には揉めたまま止まっていた小さな祭りの準備まで回ってきた。目立たぬ手伝い屋でいるはずが、いつの間にか人づての紹介が広がり、帳簿には細いながらも確かな線が引かれていく。 「便利屋としては、かなり優秀ですね」 冬真が言うと、誰も否定しなかった。力仕事を担う者は、重い荷を運ぶのに妙なほど手際がよく、聞き役の者は依頼人の言葉の裏にある遠慮を外さずに拾った。しかも、黒い外套に仰々しい名乗りまで添えるものだから、ただの親切では終わらない。現れ方だけは秘密結社じみているのに、仕事ぶりは驚くほどまっとうだった。 ある夕方、冬真は報酬袋を並べながら首をかしげた。金額は小さな商いのはずなのに、合計すると予想以上に大きい。会議室の隅で機械が低く唸り、帳簿の赤字が少しずつ削れていく。 「この調子なら、来月の維持費は越えられそうです」 その言葉に、室内が静かにざわめいた。誰もが救われた顔をしたあとで、なぜか少しだけ残念そうでもある。危ない橋を渡る代わりに、人の困りごとを片づける。それは退屈なはずだったのに、依頼ごとに違う事情があり、毎回ちがう結末が待っているせいで、会議よりよほど刺激的だった。 やがて、町のあちこちで黒曜会の噂が変わり始めた。最初は正体不明の手伝い屋だったはずが、困った時にはあの集団を呼べばいい、と誰もが口にする。秘密結社という響きはそのままなのに、結びつくのは恐れではなく安心だった。 その夜、冬真は請求書の束を閉じ、机越しに仲間たちを見回した。 「結局、うちは何を目指しているんでしょうね」 誰かが少し考えてから答えた。 「たぶん、儲かって、しかも嫌われないことだ」 笑いが起きた。だが笑いの合間に、全員が同じ事実を理解していた。悪事を働かなくても、世界は少しだけ変えられる。そして、そのほうがずっと面白い。黒曜会は赤い印のついた扉を閉め、次の依頼書を受け取った。予算難はまだ完全には終わっていない。それでも彼らは、予想もしなかった商売を、このまま続けていくのだろうと、半ば確信していた。
秘密結社の便利屋
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