朝の路地はまだ眠っていて、濡れたアスファルトに薄い光だけが差していた。俺はいつもの癖で、電柱の根元に転がる空き缶を見つけて足を止める。もったいない。そう呟いて、ラベルの剥げた缶を拾い上げ、ついでに壊れたイヤホン、片方だけの手袋、欠けたボタンまでポケットへ押し込んだ。 自分でも呆れるくらい、俺は拾う。使えるかどうかは後で決めればいい。少なくとも捨てられた瞬間に価値が消えるなんて、そんなのは嫌だった。 家に戻ると、昨夜持ち帰ったガラクタの山が、なぜか少しだけ増えて見えた。箱を開けて首をかしげた、そのときだった。山の中心で、小さな金属音がして、白い手袋が持ち上がる。次の瞬間、そこから人の形がすらりと立ち上がった。 長いまつげ、整いすぎた顔立ち、光沢のある黒いエプロン。どう見ても美少女なのに、耳のあたりから覗く配線が現実を突きつけてくる。 「おはようございます。ご主人様。昨日、私を拾ってくださって、ありがとうございます」 「は?」 俺は後ずさりして、背中を棚にぶつけた。棚から落ちた古いスプーンが床を転がる。その音に反応した彼女は、きびきびと膝をつき、まるで最初からそこにいたみたいにそれを拾い上げた。 「私はメイド機能搭載型補助端末、試作七号です。恩返しのため、家事をお手伝いします」 「いや待て、試作七号って何だ。そもそも、昨日拾ったのはただの部品の束だったはずだ」 彼女は少し首を傾げ、それから自信ありげに胸を張った。 「はい。ですが、組み立て途中のまま捨て置かれるのは、たいへんもったいないと思いましたので、私が自分で起き上がりました」 その言い方があまりに真面目で、俺は笑うべきか叫ぶべきか迷った。だが次の瞬間、彼女は床のほこりを見つけて一礼し、掃除機も使わず指先ひとつで部屋の隅を整え始めた。手際は妙に鮮やかで、なのに途中で皿を三枚、なぜか重ねてしまう。さらに、その皿を片付けようとして、今度は空箱をきれいに折りたたみすぎて、見事な紙の花束に変えてしまった。 「……お前、ほんとにメイドなんだな」 「はい。少しだけ、ずれているかもしれませんが」 彼女はそう言って、困ったように微笑んだ。その笑顔が、拾ったガラクタの中で一番価値のあるものみたいに見えて、俺はもう少しだけ、この朝の続きを見ていたくなった。
拾いものメイドの恩返し
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