「ずれている、か」 俺はまだ半信半疑のまま、食卓の向かい側に座っていた。試作七号は、まっすぐ背筋を伸ばし、両手を膝にそろえている。見た目だけなら上品な客人そのものだが、目の前にはさっきまで工具箱だった缶や、どこから出したのかわからないネジの束が並んでいた。 「朝食の準備をいたします。冷蔵庫の中身を確認しました」 「勝手に開けたのか」 「はい。もったいない食材が眠っていましたので」 そう言って彼女が差し出した皿には、半分しなびた葱と、昨日の残り飯と、乾燥しかけた卵が、なぜか見事にひとつへまとまっていた。形は少々荒いが、湯気だけは立派だ。 「……食えるのか、それ」 「食べ物は、食べられるうちに食べるべきです」 妙に説得力がある。俺が箸を伸ばすと、彼女は期待を込めた目でこちらを見た。ひと口食べる。味は悪くない。むしろ、雑なのにどこか落ち着く。 「どうですか」 「うまい。というか、普通にうまい」 その瞬間、彼女の顔がほんの少しだけ明るくなった。だが次の瞬間、満足したのか、彼女は立ち上がって棚の上を見上げる。 「では次に、部屋の整理を行います。不要品の選別を」 「待て、そこは俺がやる。勝手に捨てるな」 「捨てません。活かします」 その言葉が妙に怖くて、俺は慌てて立ち上がった。止める間もなく、彼女は部屋の隅に積んでいた箱を開け、俺が拾ってきた古い懐中電灯や片方だけの靴、壊れた目覚まし時計を並べ始める。すると、懐中電灯はなぜか首飾りのように肩に掛けられ、目覚まし時計のベルは机の脚に固定され、靴は花瓶代わりに小瓶を支えた。 「おい、何してる」 「空いている場所に、居場所を作っています」 俺は言葉を失った。確かに、散らかっていたはずの部屋が、妙に生き物めいて見える。役目を失ったはずのものが、別の形で息を吹き返しているみたいだった。 そのとき、試作七号がふと俺の机の下を覗き込んだ。 「ご主人様。ここに、まだ使われていない部品があります」 「部品?」 「はい。たぶん、私のものです」 彼女が引き出したのは、小さな銀色の端子だった。昨日見たガラクタの山にはなかったはずの、見覚えのない一片。俺がそれを受け取ろうとした瞬間、彼女の指先がわずかに震えた。 「それがないと、私は完成に近づけません。ですが」 そこで彼女は、少し困ったように笑う。 「完成しなくても、働けますよね」 その一言に、俺はなぜだか胸の奥を軽く叩かれた気がした。窓の外では、朝の光がさらに強くなっている。拾ったものが増えるほど、部屋は狭くなるはずなのに、なぜか今日は息がしやすい。 俺は端子を手の中で転がし、まだ答えを出さないまま、もう一杯あるだろうかと味噌汁の椀を見つめた。
拾いものメイドの恩返し
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