エラベノベル堂

拾いものメイドの恩返し

全年齢

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2章 / 全10

「もったいない、だろ?」 亮太が半分冗談でそう言うと、箱型端末はふっと静かになった。次の瞬間、金属の継ぎ目が柔らかく光り、細い脚のようなものが床に触れる。箱はひとりでに縦に伸び、面が開き、内側から白い装甲と黒い布地が現れた。 「変形完了。メイドモード、起動」 目の前に立ち上がったのは、人の形をした美少女だった。淡い銀髪、整った顔立ち、胸元には控えめなエプロン。だが瞳だけは機械の透明さを残していて、亮太は息をするのも忘れた。 「え、ええ……?」 「おはようございます、亮太様」 「俺の名前、知ってるのか」 ミオと名乗った少女は、すぐにスカートの裾をつまんで深々と頭を下げた。 「助けていただいた恩、必ずお返しします。私はミオ。これより、あなたの生活を支えます」 「いや、支えるって……」 言い終える前に、ミオは床のガラクタ山へ視線を向けた。 「まずは空間の確保ですね。散乱物は危険です。掃除を開始します」 「待って、そこは俺の――」 止める間もなく、彼女は両手を軽く広げ、細かな部品を迷いなく集め始めた。壊れたイヤホンは小物入れの候補、ねじは規格不明の留め具、飲みかけの缶は……なぜか 「休憩用の容器」 として保留。動きは無駄がなく、見ているだけなら妙に美しい。 「すごいな……ほんとにメイドロボみたいだ」 「みたい、ではありません。正式には――」 そこで、ミオの手が止まった。瞳がわずかに揺れ、次の言葉が途切れる。 「……えっと。私の型番は、たしか」 「たしか?」 「……思い出せません」 部屋の空気が、少しだけ抜けた。ミオは胸元に手を当て、困ったように瞬きをする。 「自己紹介を続けるつもりでしたが、重要な部分が抜けています。記憶領域の一部が、欠落している可能性があります」 「そんな大事なとこ、抜けてて大丈夫なのかよ」 「大丈夫ではありませんが、動作はできます。掃除も、食事準備も」 そう言って彼女は、いつの間にか机の上にあった乾パンの袋を見つけた。 「朝食を作ります」 「それ、朝食になるのか?」 「工夫次第です」 妙に胸を張るミオに、亮太は苦笑するしかなかった。けれど、散らかった部屋の中央に立つ彼女は、壊れた箱だったさっきまでよりずっと眩しい。 「なあ、ミオ」 「はい」 「恩返しとか、そんな急がなくていいからさ。まずは、思い出せるとこからで」 ミオは一瞬だけ目を見開き、それから静かに頷いた。 「承知しました。では、残っている情報から順に整えます。亮太様、この部屋は少し……いえ、かなり改善の余地があります」 「わかってるよ」 亮太が肩をすくめた、そのときだった。窓の外で朝の光がいっそう強くなり、ミオの髪と白い袖口を淡く照らした。彼女はまだ不完全で、どこかぎこちない。それでも、床に散らばるガラクタを前にして、まるで役目を見つけたみたいに微笑んだ。 「まずはお部屋をきれいにして、それから、温かいものを用意します。……亮太様、キッチンは、どちらでしょうか」 「キッチンはあるけど、その前に」 亮太は散らかった山と、腕を組んで首をかしげるミオを交互に見た。 「俺の朝ごはん、缶詰じゃなくてちゃんとしたやつにしてくれよ」 「努力します。ですが、ひとつ確認です」 「ん?」 「この部屋の物は、全部“必要”ですか?」 亮太は即答できなかった。ミオの問いかけは、あまりにも真っすぐだったからだ。彼は床の上の壊れかけた道具たちを見下ろし、最後に、まだ光の残る彼女の顔を見た。 「……たぶん、全部じゃない。でも、すぐ捨てるのは、やっぱりもったいないんだよ」 その言葉に、ミオは小さく首を傾げた。けれど次の瞬間、彼女はまるで何かを探るように、ほんのわずかに眉を寄せる。 「もったいない、ですか。……その感覚、少しだけ、知っている気がします」

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