エラベノベル堂

拾いものメイドの恩返し

全年齢

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3章 / 全10

ミオは、亮太の返事を聞くなり、床の上に散っていた物へ視線を走らせた。まるで地図を読むみたいに、ひとつ、ふたつと確認していく。次の瞬間には、無駄のない手つきで分類を始めていた。 「こちらは使用頻度が低いので、保留。こちらは修復待ち。こちらは、ええと……感情の起点として保管」 「待て待て待て。最後の何だよ」 亮太は思わず身を乗り出した。ミオが小箱に入れようとしていたのは、机の脇に置いていた古いキーホルダーだった。色は剥げ、輪っかもゆがんでいる。それでも、彼にとっては昨日拾ったばかりの戦利品だ。 「それは保管じゃなくて、そこに置いとくやつ」 「ですが、未来の亮太様にとって有用かもしれません」 「未来の俺に回すな」 「では、予備箱へ」 「それも違う」 ミオは首をかしげたが、手は止まらない。今度は読みかけの本、充電器、なぜか片方だけ残っていた手袋まで、見事な速度で箱に収めていく。 「ミオ、ちょっと待て。これは使う。これは今使う。これは捨てないけど、保管でもない」 「理解しました。すなわち、重要度は高いが、直近の用途は未定です」 「雑にまとめるな」 彼が慌てて箱を開けると、ミオはびくりと肩を揺らした。 「申し訳ありません。私は、役に立とうとすると、少し……いえ、かなり急ぎすぎるようです」 その声が、妙に小さかった。さっきまできびきび動いていた手も、今は宙で迷っている。 「急ぐのはいいけどさ」 亮太は箱からキーホルダーを救出しながら言った。 「勝手に未来へ送るなって」 「未来のため、ではだめでしたか」 「だめじゃない。けど、今ここで困る」 「今、困らせましたね」 ミオは顔を上げたが、すぐにまた目を伏せた。肩が少しだけ落ちる。その動きが、あまりに人間じみていて、亮太は言葉を詰まらせた。 「いや、困ったけど……お前が悪いってわけじゃ」 「いえ。私は、まだうまく働けていません」 床を見つめたまま、ミオは指先をぎゅっと握る。 「恩返しをするはずなのに、整理ひとつまともにできません。私、役に立てないのでしょうか」 亮太は一瞬だけ黙った。部屋の中は少し片づいたはずなのに、ミオの周りだけは空気が重い。 「役に立つって、そんなに急いで決めなくていいだろ」 「でも」 「でもじゃない。少なくとも今は、お前が勝手に全部しまうと俺が困る」 ミオは困惑したように瞬きをした。 「それは、私が不要という意味では」 「逆だよ。必要だから止めてる」 その言葉に、ミオの瞳がわずかに揺れた。だが次に返ってきたのは、かすれた声だった。 「必要、ですか」 「当たり前だろ」 亮太がそう言うと、ミオは胸元に手を当てたまま、しばらく動かなかった。やがて小さく頷く。 「では、私は、間違えないようにします」 「いや、間違えるなとは言わないけど」 「では、少しだけ」 「少しだけな」 そう返したものの、ミオの手つきはまだどこかぎこちない。箱の縁に触れては引っ込み、棚に目をやっては視線をそらす。そのたびに、彼女が自分の不完全さを数えているみたいで、亮太は思わず頭をかいた。 「とりあえず、次は俺が一緒に見る。勝手に未来送りはなし。今の部屋で、今使うものだけ分けよう」 「……はい」 ミオは小さく答えた。その返事は従順なのに、どこか頼りなさを含んでいる。亮太は散らかった部屋を見回し、まだ山のように残る物へ息を吐いた。 「先は長いな」 「長い、ですか」 「うん。でも、まあ」 彼は床からもうひとつ、古い缶を拾い上げた。 「ここからなら、なんとかなる」

3章 / 全10

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