社長が戻ってきた夜、居酒屋の空気はいつもより少しだけ騒がしかった。熊さんはわざとらしく腕を組み、先生は湯気の立つお通しを眺めたまま、遅かったなとだけ言う。社長は悪びれもせず笑い、地域センターの資料をどさりと卓に置いた。そこで二人は、もう驚くふりをしなかった。あの男が忙しかったのは、店を忘れたからではない。昼も夜も、町のあちこちで人をつないでいたからだ。 それから三人の席は、ただ酒を飲む場所ではなくなった。先生は名簿と案内文の誤字を直し、熊さんは重い荷物を平気で運び、社長は相変わらず全体を仕切る。誰かが欠けても困るが、誰か一人が張り切りすぎてもまた困る。そんな具合に、互いの癖まで知るようになっていた。気づけば、店主まで巻き込まれている。次の店の周年には地域サークルが余興を出し、商店街の催しにはこの居酒屋の常連が手伝いに立った。 空席だった椅子は、もう寂しさの象徴ではない。予約席のように誰かの予定を待つ場所になっていた。そこに座るのが社長であれ、別の顔を持つ町の誰かであれ、三人は自然に受け入れた。名前を知らないまま始まった関係が、今では互いの暮らしを支える輪になっている。酒の勢いだけではない。明日の段取りを笑って話せる相手がいることが、こんなにも心強いとは思わなかった。 やがて春の催しの日、三人は店の前で並んだ。会場へ向かう荷物は多いのに、足取りは軽い。社長が少し照れた顔で言う。まだまだこれからだな。熊さんが鼻で笑い、先生は静かにうなずいた。その瞬間、店の奥から拍手が起きた。振り向くと、常連たちだけでなく、地域センターで見かけた顔が何人も立っている。誰かがここを、もう一つの集会所みたいにしたらしい。 その夜、三人の笑い声は路地にこぼれ、春風に乗って遠くまで流れた。居酒屋はいつもの店のままなのに、そこに集まる人の未来だけが、少し先へ進んでいた。
検閲済みプロット
なじみの居酒屋で毎晩顔を合わせる三人組の老人たち。互いの本名は知らない。ある日、そのうち一人だけが突然姿を見せなくなる。残された二人は寂しさを隠しながら、彼がどうしたのかを探し始めるが、思いがけない事実が明らかになるコメディにしてください。ラストは、老人たちにこれからの楽しみや希望を感じさせる形にしてください。
