春の終わり、校舎の窓から差し込む光はまだ少しだけ白く、廊下の空気には新しいノートの匂いが混じっていた。新入生の美咲が軽音楽部の札を見つけて部室の引き戸を開けると、まず飛び込んできたのは、アンプの低い唸りと、やけに楽しそうな笑い声だった。 部室の中央には、揃っているようで揃っていない四人の先輩たちがいた。長い髪を無造作に束ねた先輩はベースを肩にかけたまま、まるで舞台の上にいるみたいな大きな身振りで名乗った。次の先輩は眼鏡を押し上げながら、機材の説明になると急に言葉が速くなり、机の上のケーブルを指先で器用に整えた。ドラムの先輩は椅子に座ったままスティックをくるくる回し、眠そうな顔で 「よろしく」 とだけ言ったのに、その一言が妙に場を締めた。最後の先輩は小さく手を振り、ギターを抱えたまま穏やかに微笑んだ。その声だけが不思議と近く、部室のざわめきをやわらげた。 美咲が自己紹介を終えるころには、胸の奥が少し熱くなっていた。誰一人として完璧に見えないのに、それぞれが自分の場所を知っている。そんな印象だった。 「とりあえず座ろうか」 穏やかな先輩の一声で、空気がふっとほどける。机の上には誰が持ってきたのか分からない飴が一袋置かれていて、なぜか自然に手が伸びた。 「お菓子ある部活、ちょっと珍しいでしょ」 眼鏡の先輩が得意げに言うと、ドラムの先輩が 「昨日の残り」 と短く返し、皆が笑った。美咲もつられて笑う。さっきまでの緊張が、湯気みたいに薄れていく。 話題は好きな音楽、通学路のパン屋、前の学年の伝説めいた失敗談へと飛び、気づけば時計の針が思ったより進んでいた。部室の隅ではチューナーが小さく光り、窓の外では部活動の呼び出し放送が流れている。それでも、この部屋だけは少し別の時間を生きているようだった。 美咲は飴を口に入れ、甘さが舌に広がるのを感じながら、ここでなら何かが始まるのだと思った。うまく弾けるかどうかはまだ分からない。けれど、こんなふうに笑いながら始まるなら、きっと悪くない。初めての放課後は、ゆるくて、少し騒がしくて、そして思っていたよりずっと楽しそうだった。
軽音部、はじめての放課後
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