エラベノベル堂

軽音部、はじめての放課後

全年齢

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10章 / 全10

拍手が、波みたいに体育館を満たした。最後の音が消えたあとも、しばらく誰も息をしなかった気がする。美咲は弦に触れたまま固まっていたが、隣でベースの先輩が小さく肩を落とし、その反動でようやく現実に戻った。 「終わった……」 元気な先輩が掠れた声で言う。次の瞬間、あの人らしく大きく笑い、でも目元は少し潤んでいた。眼鏡の先輩は譜面台を抱えたまま、何度も客席へ頭を下げる。ドラムの先輩はスティックを握ったまま無言だったが、その口元だけは確かにゆるんでいた。穏やかな先輩は振り返って、美咲たち全員の顔を一人ずつ確かめるように見た。 「よくできたね」 その一言が、胸の奥に静かに落ちる。うまくいった嬉しさより、途中で何度も不安になったことまで含めて、全部ここに着地した感じだった。 舞台裏に戻ると、緊張で固まっていた足が急に重くなる。けれどそれすら、終わった証拠みたいで悪くなかった。備え付けの椅子に座った途端、元気な先輩が大きく伸びをする。 「喉、からっから。打ち上げ、早く行こう」 近所の食堂は、学園祭の喧騒から少し離れた路地にあった。湯気の立つお茶と、山盛りの唐揚げと、甘いおしるこがテーブルに並ぶ。さっきまで舞台の上にいたのが嘘みたいに、みんな少しだけ子どもの顔に戻っていた。 「最初の入り、私、完全に心臓止まるかと思った」 美咲が言うと、眼鏡の先輩が笑った。 「止まってないなら勝ちでしょ」 「照明の合図、最後まで忘れなかったの偉い」 穏やかな先輩がそう言うと、ドラムの先輩が唐揚げを口に入れたまま頷いた。 「深呼吸、効いた」 「紙に書いた甲斐があったね」 誰かが笑うたび、今日までの慌ただしさが少しずつほどけていく。衣装の布が足りなかったことも、段取りが崩れたことも、眠れない夜にこぼした弱音も、今では全部、舞台の色を作った糸みたいに思えた。 元気な先輩がふいに箸を止めた。 「ねえ、来年は何やる?」 「早い」 「でも、やるなら今から考えといたほうがいいじゃん」 美咲はその言葉に、思わず笑った。終わったばかりなのに、もう次の話が始まっている。たぶんこれが、この部のいつもの速さなのだ。大きな出来事が終わっても、日常はそこで途切れない。新しい曲を探し、また練習して、また誰かの好きがぶつかる。 窓の外では、祭りの明かりが遠く揺れていた。食堂を出るころには夜風が少し冷たくて、美咲は袖を握りながら歩く。だが隣には、同じように少し疲れた顔の仲間がいる。 「美咲、次もよろしく」 穏やかな先輩が言う。 「もちろん」 そう返した瞬間、美咲は確信した。今日で終わるのではなく、今日からまた続いていくのだと。 軽音楽部の日々は、きっとこれからも騒がしくて、少し不器用で、でもちゃんと楽しい。拍手の余韻を胸に抱いたまま、五人は並んで帰っていった。

検閲済みプロット

軽音楽部に所属する女子高校生たちの日常を描く、明るく親しみやすい青春コメディ。部活動、友情、ちょっとした勘違いやハプニングを通して、賑やかな毎日と成長を描く。

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