エラベノベル堂

町を守る五人組

全年齢

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1章 / 全10

誰もいない公民館の和室で、五人の老人が妙に真剣な顔をして座っていた。湯のみの湯気だけが、しんとした空気の中で細く揺れている。 「で、だ」 一番背の高い男が、腕を組んだまま言った。元校長の三浦が、畳の上の折り紙みたいに置かれたチラシを指先でつつく。 「わしら、退職してからというもの、畑とテレビの往復じゃろう。悪くはない。悪くはないが、少しばかり、体が鈍る」 「同感だねえ」 白髪をきれいにまとめた佐伯がうなずく。 「朝起きて、散歩して、昼寝して、それで一日が終わる。楽ではあるけど、誰かの役には立っていない気がしてね」 残る三人も、似たような顔をしていた。元看護師の早川は手を膝に置き、元大工の榊原は指先で木のささくれでも探すように畳を撫で、元商店主の野田は 「うちの店も息子に任せて久しいしな」 と苦笑した。 最初にこの集まりを持ちかけたのは野田だった。町内会の掲示板に貼られた、子ども向けの防犯講習の案内を見て、ふと思ったのだという。 「若いもんに任せるだけじゃ、もったいないだろう。昔を思い出してみろ。わしら、若いころは町内で何でもやったじゃないか」 「何でも、ねえ」 榊原が鼻を鳴らした。 「今さら走れるのか、あんた」 「走るさ。全力ではないが」 「そこが年寄りらしい」 早川がくすりと笑う。 笑いが起きたことで、場の硬さが少しほどけた。三浦は腕をほどき、しばらく黙ってから言った。 「地域のために何かしたい、という気持ちはある。だが、ただのボランティアでは埋もれるかもしれん」 「じゃあ、目立てばいい」 野田が、急に目を輝かせた。 「目立つ?」 「そうだ。昔の子どもたちが夢中になったみたいに、分かりやすく。派手で、覚えやすくて、ちょっとおかしいくらいがいい」 その言葉に、早川が首をかしげる。 「戦隊ごっこ、みたいなもの?」 「ごっこで結構」 野田は笑った。 「町の困りごとに駆けつける、年寄りの戦隊だ。どうだ、面白いじゃないか」 榊原は眉をひそめたが、口の端は少し上がっていた。 「わしらがヒーローか。ずいぶん地味なヒーローだな」 「地味でも、役には立つ」 三浦が言うと、全員の視線がそろった。 それから先は早かった。衣装の色を決めよう、合図はどうする、名乗りは必要か。突拍子もない相談なのに、誰ひとり止めなかった。むしろ、各々が昔の経験を持ち寄っては、ああでもないこうでもないと盛り上がる。 「わたしは赤がいい」 「派手だな」 「赤は元気が出るでしょう」 「わしは青だな。落ち着いて見える」 「お前は顔が派手だから、何色でも目立つ」 野田がわざと胸を張ると、皆がどっと笑った。笑いながら、ふと気づく。さっきまで腰の重かった体が、少し軽い。背筋が伸びて、声も大きくなる。誰かのために動くと決めただけで、こんなにも心が浮くのかと、五人はそれぞれ内心で驚いていた。 「よし」 三浦が立ち上がる。 「まずは町内の様子を見に行こう。困っていることがあるなら、わしらが拾えばいい」 「その前に、名前だな」 野田が言う。 「名前?」 「そうだ。呼ばれなきゃ始まらん」 一同が顔を見合わせた、そのときだった。庭先のほうから、か細い呼び声が聞こえた気がした。 「すみませーん、どなたか……」 五人は一斉に立ち上がり、思わず顔を見合わせる。まだ名も決まっていないのに、もう役目が来たらしい。誰ともなく息をのみ、次の言葉を待った。

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