エラベノベル堂

夜更けの噂と共学の学園

全年齢

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1章 / 全10

春の朝、長く女子高として知られた白鳳学園の正門に、初めての混ざりものが立っていた。男子生徒が五人。制服のサイズがまだ落ち着かない者、靴紐を何度も結び直す者、ただ下を向いたまま動かない者。入学式の看板の前で、彼らはそろって肩をすぼめていた。 桜庭澪は、その様子を少し離れた場所から見ていた。共学になると聞いたときは、校舎の空気が少し変わるだけだと思っていた。だが、実際に並ぶ彼らは、まるで見知らぬ土地に迷い込んだ動物のように警戒していた。 「席、どこでもいいかな」 誰かがそう小さく言うと、別の男子が即座に首を振った。 「窓際はやめよう。あと、前の列も」 理由もなく、選び方だけが妙に細かい。澪は思わず目を細めた。教室に入ってからも、それは変わらなかった。男子たちはできるだけ壁際に寄り、女子と視線が合うたびに息を止める。名簿順で近くになっただけで、椅子をずらし、手を引っ込め、まるで見られること自体を避けているようだった。 昼休み、澪は委員の仕事で資料を配りながら、彼らの席のそばを通った。すると一人が資料を受け取る瞬間、指先がかすかに震えた。隣にいた女子が何気なく笑いかけただけで、彼はひどく驚いた顔をして背筋を伸ばした。 大げさだ、と笑うこともできた。けれど、その怯え方には、ただの照れや緊張では片づかない硬さがあった。見えない糸で引かれているみたいに、誰かの顔を見る前から身構えている。 放課後、澪は廊下で立ち止まり、窓の外に並ぶ桜を見た。新しい風が入ったはずなのに、学園の中にはまだ古い沈黙が残っている気がした。男子たちは何を怖がっているのか。なぜ、この学校に入った途端、あんな顔をするのか。 その問いは、胸の奥で小さな棘になった。澪は振り返り、壁にかかった古い校内地図を見上げた。長く女子だけで続いてきた学校には、表に出てこない何かがあるのかもしれない。そう思った瞬間、ただの違和感は、確かな興味へと変わっていた。

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