文化祭の朝、白鳳学園はいつもより早く息をしていた。正門には色とりどりの旗が揺れ、廊下には焼きそばの匂いと緊張のざわめきが満ちている。澪は体育館へ向かう途中で、山岸悠真と藤崎蓮が展示パネルを支えているのを見つけた。少し前まで互いの距離を測るだけで精一杯だった二人が、今は息を合わせて角を曲がっている。その光景だけで、胸の奥が熱くなった。 午前の発表では、女子と男子が分かれていた去年までとは違い、共同で作った展示が並んだ。古い校内地図の復元、地域の伝承の聞き取り、そして保管庫から見つかった記録の抜粋。澪が読み上げるたび、会場の空気は少しずつ変わっていく。怖い話の形をしたものが、実は誰かを守るための知恵だったこと。けれど、その知恵が長い年月のうちにねじれ、互いを遠ざける壁になっていたこと。男子も女子も、誰かの言葉の裏にある感情を初めて同じ目線で受け止めていた。 途中、ざわめきが起きた。古い渡り廊下の模型の前で、床板の裏に隠してあった小箱が見つかったのだ。中には、学園創立時の覚書の写しと、まだ墨の匂いが残る追記が入っていた。夜に迷った者は、互いの顔を確かめ合って帰ること。女子も男子もなく、ひとりにしないこと。白鳳学園は、最初からそういう場所として始まっていた。 その記録を前に、怜は深く頭を下げた。自分が混乱を起こしてまで揺さぶろうとしたのは、隠されたものを暴くためだったが、やり方は間違っていたと認めた。澪は首を振った。間違いがあったからこそ、今こうして向き合えたのだと思った。 午後、体育館の発表が終わると、拍手はすぐには鳴らなかった。だが、やがてひとりが手を叩き、次々に音が重なった。ぎこちなく始まった拍手は、最後には会場いっぱいに広がっていく。悠真は顔を赤くしたまま笑い、蓮は照れたように視線をそらし、それでももう逃げなかった。 夕暮れ、片づけの終わった校舎を澪はひとりで歩いた。窓に映る自分の姿は、もう曖昧ではなかった。伝承は完全には消えない。古い場所には、古い記憶が静かに残り続ける。それでも、恐れに支配されずに名前を呼び合えるなら、記憶は呪いではなく道しるべになる。 正門を出ると、校舎の向こうに薄い月が上がっていた。澪は立ち止まり、振り返る。白鳳学園は、長く閉じていた殻を少しだけ開いたように見えた。次の歴史は、誰かを遠ざけるためではなく、並んで歩くために始まる。風が旗を鳴らし、その音の奥で、校舎は静かに新しい名を受け取っていた。
検閲済みプロット
今まで女子高だった学校が、共学化を機に男子生徒を受け入れることとなった。しかし新入生の男子たちは、なぜか女子生徒に強い警戒心を抱いている。その背景には、この地域に伝わる不穏な言い伝えがあった――という、学園ホラーサスペンス。
