エラベノベル堂

あおい、料理大会へ

全年齢

小説ID: cmnhj5wnn001301mzih0zkydh

1章 / 全10

商店街のアーケードに、朝から油とだしの匂いが満ちていた。あおいはエプロンの端を握りしめ、掲示板に並ぶ出場者名を見上げる。どの名札にも聞き覚えのある店名があり、年上の料理人ばかりだと知っただけで、胸の奥がひやりと縮んだ。向かいの台では、白い帽子の男が銀の皿に彩り豊かな料理を並べている。湯気の向こうで、野菜は宝石みたいに輝き、ソースは絵の具のように艶やかだった。隣では、女将風の出場者が高く積んだ小鉢を静かに整えている。どれも完成された一皿で、あおいの手の中のメモ帳は、急に頼りなく感じられた。私は、こんな場所で何を出せるんだろう。祖母の台所では、いつも決まった道具が並び、季節の野菜が素直に鍋へ入った。派手さはなくても、食べる人の顔を見て塩を足す。疲れた日は汁を多めにする。そうした調整を、祖母は料理の知恵だと笑っていた。あおいはその言葉を思い返し、胸の奥にかすかな熱が灯るのを感じた。豪華さで敵わなくても、手の届くやさしさなら、自分にも作れるかもしれない。だしの香り、焼きたての音、会場に集まる期待の気配。そのすべてが波のように押し寄せる中で、あおいは一度だけ深く息を吸った。見ているだけでは、たぶん何も変わらない。祖母が守ってきたあの台所の味を、ただ家の中に置いたまま終わらせたくない。あおいはメモ帳を開き、震える指で最初の一行を書き込んだ。自分も、この勝負の舞台に立つ。そう心に決めた瞬間、商店街のざわめきが、少しだけ遠くなった。

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