放課後の空気は、学校の廊下より少しだけ自由で、少しだけ心細い。私はランドセルを背負ったまま、町はずれの古い映画館の前で足を止めた。くすんだ看板には、いつ見ても同じ題名が光っている。何度来ても、上映作品が変わらない。まるで時間が入口でつかまっているみたいだった。 扉を押すと、冷えた暗さと古い布の匂いがふわりとまとわりついた。客席はまばらで、スクリーンの白い光だけが広く伸びている。なのに、どこか変だ。映画のせりふとは別に、耳の奥で小さな囁きが揺れた気がした。誰かが呼んだようでもあり、古い機械が息をしているようでもある。私は立ち止まり、もう一度耳を澄ませた。 ロビーの奥から、低い声が飛んできた。 「勝手にうろつくな」 振り向くと、館長らしい男が腕を組んでいた。年はよくわからないけれど、眉間のしわだけはずっと前からそこに住んでいるみたいだった。ぶっきらぼうなのに、視線だけは客席や映写室の方へ何度も戻る。映画館そのものを見張っているというより、守っている感じがした。 「ここ、毎回同じ映画なんだね」 私は思ったままを口にした。 男は短く息を吐いた。 「文句があるなら、外で言え」 けれど足は動かない。私はロビーに飾られた古いポスターを見上げた。色あせた主演俳優の笑顔の下に、薄い線がいくつも走っている。誰かが何度も触った跡だ。さらに、壁のスピーカーの近くには、指先で押したような小さなへこみもある。 「この映画館、まだ何か隠してるでしょ」 言ってから、少しだけ胸が高鳴った。館長は返事をしなかった。ただ、スクリーンの光に照らされた横顔が、ほんの一瞬だけやわらいだ気がした。怒っているのではない。むしろ、見つかってしまった、と困っているみたいだった。 私はその表情を見て、ますます気になった。この人はきっと、ただ古い映画を流しているだけじゃない。こんなにも不器用に守り続ける理由が、ここにはある。私は鞄の肩ひもを握り直し、もう一歩だけ映画館の奥へ近づいた。
古い映画館の声
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