放課後の図書館は、いつもより静かだった。窓の外では校庭の砂が夕日に染まり、ページをめくる音だけが小さく響いている。ぼくは本棚のいちばん奥、ふだんは誰も寄りつかない古い資料の棚をのぞき込んでいた。そこには背表紙の色あせた本や、表紙の角が丸くなったアルバムが、眠るように並んでいた。 ぼくは写真が大好きだった。とくに、見た人の背中をひやりとさせるような、説明のつかない写真が好きだった。少し暗い廊下の端にうっすら人影が映っていたり、集合写真のすみに知らない顔が混じっていたり。そういう一枚を見つけると、胸の奥がふわりと熱くなる。怖いのに、目が離せない。 その日、指先に触れたのは、布張りの分厚いアルバムだった。表紙には学校名も年月日もなく、ただ埃だけが薄く積もっていた。そっと開くと、古い紙の匂いがふわりと立ちのぼる。最初の数ページは運動会や遠足の写真ばかりで、どれもありふれていた。けれど中ほどの一枚で、ぼくは息をのんだ。 そこには校庭の隅が写っていた。今の校庭より少し狭く見える。鉄棒の影、低い木、雨上がりのぬかるみ。そのどれもが普通なのに、写真の右端だけが妙に暗かった。まるで、そこだけ夕方の色を飲み込んでしまったみたいに。そして暗がりの中に、誰かが立っているように見えた。顔はぼやけ、服の形もはっきりしない。けれど、その輪郭は確かにこちらを向いていた。 ぼくはページをめくる手を止めた。怖いはずなのに、心臓がどきどきして止まらない。もう一度よく見ると、写真の隅に小さく白い文字があった。消えかけた手書きで、古い日付と、短い一言。何かを待つような、あるいは何かを残すような言葉だった。 そのとき、背後で本の山がかすかに鳴った。振り向くと誰もいない。けれど、棚のもっと奥に、まだ見ていない資料がある気がした。学校の古い記録か、昔の卒業アルバムか。あの写真は、ただ不気味なだけじゃない。なにか、長いあいだしまい込まれていた秘密の入口みたいだった。 ぼくはアルバムを胸に抱え、静かな図書館の奥へもう一歩進んだ。
図書館の心霊写真
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