駅前の古い雑居ビルの三階にある小さなスタジオへ、五人はそれぞれ別々の足取りで集められた。呼び出したのは、会ったこともない企画会社の担当者だ。書類の束を前に、説明だけは妙に明るかった。期間限定のバンドを組んで、来月の小さなイベントに出る。それだけの話だったのに、目の前に並んだ五人の顔には、同じ温度の不信が浮かんでいた。 最初に口を開いたのは、細身で神経質そうな男だった。ギターケースを抱えたまま、室内を見回して鼻で笑う。 「で、誰が中心?」 その一言に、隣の椅子に座っていた派手な髪色の女が眉を上げる。自分だと思ったのか、とでも言いたげに口元が歪んだ。 ベースを持つ長身の青年は、無言で足を組み、壁にもたれたまま動かない。ドラムスティックを指で回していた短髪の女は、誰とも目を合わせず、机の上のミネラルウォーターだけを見つめている。最後の一人、柔らかな雰囲気のボーカル担当らしい青年が、場を和ませようと笑顔を作ったが、その笑みは誰にも届かなかった。 担当者は空気の重さに気づいていないふりをして、五人の名前を順に読み上げた。だが自己紹介が始まると、ますます噛み合わない。好きな音楽はばらばら、活動歴も経験もまちまち、誰も相手の話を最後まで聞かない。ギターの男が 「歌ものは苦手だ」 と言えば、ボーカルの青年が 「じゃあ何のために呼ばれたんですか」 と静かに返す。派手な髪色の女は笑ったが、その笑いは温度がなかった。 これで本当にやるのか。全員の顔に、同じ疑問が貼りつく。だが担当者は構わず、机に置かれた譜面を軽く叩いた。 「活動は今日からです。まずは簡単な合わせをしましょう」 誰も返事をしなかった。けれど、帰ると言う者もいない。五人は仕方なく楽器を手に取り、狭い部屋の中央に寄せられた椅子の周りへ集まった。空気はまだ冷たいままだったが、その不自然な沈黙の奥で、誰も望んでいない始まりだけが、確かに音を立てようとしていた。
相性最悪、最強の五人
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