エラベノベル堂

相性最悪、最強の五人

全年齢

小説ID: cmnhynd3m002601mzpmb0z05s

2章 / 全10

初回の練習は、始まる前からつまずいていた。担当者が用意した簡単な曲は、誰が主導するでもなく、最初の一音からばらばらだった。ドラムが拍を取れば、ギターは少し急ぎ、ベースはその揺れに合わせず、ボーカルは入り損ねる。狭いスタジオの壁に、まとまらない音だけが何度も跳ね返った。 「今の、速い」 短髪の女がそう言うと、ギターの男は眉をひそめた。 「いや、普通だろ」 「普通じゃ合わせられないなら遅いのと同じです」 ボーカルの青年が間に入ろうとして、半歩前へ出た瞬間、派手な髪色の女が譜面台を指で叩いた。 「まず、誰がどこを見てるか決めない?」 決める、という言葉だけが先に立って、肝心の中身が決まらない。誰がテンポを出すのか、誰が曲の流れをまとめるのか、意見を言う順番ですら噛み合わなかった。ギターの男は必要以上に細かく譜面を見直し、ベースの長身の青年は最低限の音だけを鳴らし、ドラムの女は最短で済ませたいようにスティックを回した。ボーカルの青年は空気を柔らかくしようとして、かえって空回りした。 何度目かの中断のあと、スタジオの外から視線を感じた。ドアの小窓に、スマートフォンを構えた若い客が何人か張りついている。誰かがこの不思議な組み合わせを見つけて、面白半分に写真を撮っているのだ。通りすがりの客まで、まるで珍しい見世物でも眺めるような顔をしていた。 「新しい組み合わせって、こういうの好きだよね」 派手な髪色の女が吐き捨てると、外のひそひそ話が一段だけ大きくなった。企画会社の担当者は、期待がどうとか、化学反応がどうとか、妙に楽しそうな声で笑っていた。戻れない場所まで、もう半歩だけ押し出された気がした。 結局、五人は練習をやめなかった。やめれば、ただの寄せ集めで終わる。やめなければ、何かになるかもしれない。その曖昧な境目に立たされ、互いの不機嫌を抱えたまま、彼らは再び楽器を構えた。音はまだひどく、息も合わない。それでも、外からの好奇心だけが妙に強く、引き返す理由を奪っていった。

2章 / 全10

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