エラベノベル堂

相性最悪、最強の五人

全年齢

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9章 / 全10

再結集した五人は、翌朝から一気に仕上げに入った。時間はない。前みたいに細部を磨いている余裕もなく、むしろ削るほど形が見えてくる段階だった。ギターの男は迷いながらも譜面の余白を埋めていた線を消し、残すべき音だけを太く囲った。ドラムの女は刻みを増やす案を捨て、拍を支える最低限の動きに絞る。ベースの青年は音数を減らし、低い一本線で曲の重心を引き受けた。派手な髪色の女は歌い上げる箇所を思い切って減らし、そのぶん言葉が刺さるように強弱をつけた。ボーカルの青年は全体の呼吸を見て、出入りの合図を短く明確に整えた。 完成度は高くない。けれど、雑音の多さが消えたぶん、五人それぞれの癖がむしろ前に出る。ギターの細かさは飾りではなく骨になる。ドラムの厳しさは曲を締める輪郭になる。ベースの静けさは安心できる床になる。派手な声は空気を切り開き、柔らかな歌はその隙間をつなぐ。ぎこちないはずの組み合わせが、最小限に削ったからこそ、逆に鮮明だった。 夕方、会場入りすると、受付の主催者は驚いた顔で彼らを見た。想像よりずっと地味ですね、と笑われて、派手な髪色の女が肩をすくめる。音で見せます、と言いかけたボーカルの青年は、途中で言葉を飲み込んだ。見せるのではない。もう、隠さないだけだ。 本番直前、五人は舞台袖で円になった。誰も大きなことは言わない。ギターの男が短く、ずれたら止める、と言う。ドラムの女が、止めたらすぐ戻る、と返す。ベースの青年はうなずき、派手な髪色の女は、私が空気を持っていく、と笑った。ボーカルの青年が最後に、今日だけは、違うままでいよう、と言うと、全員が小さく息を吐いた。 その瞬間、控室の外で係の人が慌てた声を上げた。先に押さえていた別の出演者が急病で来られなくなったらしい。空いた時間を埋めるため、五人は最後にもう一曲増やせるか尋ねられた。通常なら断る場面だった。だが、短い沈黙のあと、五人は顔を見合わせる。用意していたものを少し変えれば、いける。そう判断したのは、誰でもなかった。 結果として、彼らの出番は予定より早まり、しかもアンコール代わりの一曲まで任されることになった。理想通りではない。けれど、最小限まで削った構成だからこそ、急な変更にも耐えられる。相性の悪さを隠さず、役割を削ぎ落としたその形は、予想外にしぶとかった。五人は舞台へ向かう。今度こそ、崩れ方ごと武器にして。

9章 / 全10

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