エラベノベル堂

旧校舎の壁画と失踪

全年齢

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10章 / 全10

翌朝、旧校舎の立ち入り禁止の札は、もうただの脅し文句に見えなかった。昨夜の騒ぎが嘘みたいに静まり返った渡り廊下を、僕たちは揃って歩いた。真鍋は肩の力が抜けた顔で欠伸をし、佐伯は少し照れたように笑っている。ひと晩で、失踪者は帰ってきた人になり、怪談は学園の思い出に姿を変えた。 広間へ入ると、壁画は昨夜よりも穏やかだった。空白だった場所には佐伯の顔が収まり、その隣には僕たちが知る誰かの表情が、前より少しだけ柔らかく浮かんでいる。まるで、ここで起きた騒動そのものを飲み込んで、静かに受け入れたみたいだった。小林先生は腕を組み、満足げにうなずいた。 「これでいい。怖がられるより、思い出されるほうがずっとましだ」 その言葉に、誰も反論しなかった。旧校舎は長いあいだ、入ってはいけない場所として閉ざされていた。けれど本当は、忘れたくないものをしまっておくための箱だったのだろう。埃をかぶったアルバムも、色褪せた寄せ書きも、文化祭の夜に残された笑い声も、全部ここに重なっていた。 佐伯が壁の前に立ち、軽く手を振る。 「次からは、ちゃんと最初に話すよ」 真鍋が即座に返した。 「遅い」 僕も笑った。怒っていたはずなのに、もうその気持ちはどこかへ溶けていた。代わりに残っていたのは、少しだけ不思議で、少しだけあたたかい空気だった。壁画の生徒たちも、それに応えるように見えた。誰かが誰かを見つけ、誰かが誰かを残す。その繰り返しが、この学校の時間なのかもしれない。 やがて校内放送が鳴り、今日からは旧校舎の一部を記録室として使うと告げた。ざわめきは起きたが、もう拒む声は少ない。怖い場所ではなく、話したくなる場所へ変わったのだ。僕たちは顔を見合わせ、同時に吹き出した。 次の授業へ向かう廊下で、真鍋が肩をぶつけてくる。 「なあ、あの壁、また増えると思うか」 僕は窓の外に目をやった。風に揺れる木々の向こうで、旧校舎の窓が朝日に光っている。たぶん、また誰かが笑って、誰かが残して、記憶は少しずつ更新されていくのだろう。 「さあ。でも、増えても怖くないな」 そう答えると、二人とも笑った。佐伯も後ろで笑い、僕たちはそのまま次の学園生活へ戻っていく。旧校舎はもう、ただの立ち入り禁止の場所ではない。少し不思議で、たしかに温かな思い出の象徴として、これからも学校の片隅に静かに立ち続けるのだ。

検閲済みプロット

とある高校の旧校舎に、生徒たちが楽しそうに過ごす姿を描いた壁画がある。ある日、生徒の一人が行方不明になり、学校は騒然とする。立ち入り禁止となっている旧校舎に入ると、なぜか壁画に新しい人物が一人加えられていた。ライトノベル風のミステリーコメディとして描く。

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