町はずれの広場に、夕暮れの影が長く伸びていた。そこで輪になっていたのは、天動説研究会と名乗る六人の老人たちだった。普段は畑仕事や将棋の話ばかりしている面々が、この夜ばかりは妙に背筋を伸ばし、誰に見られるでもないのに秘密の集会を開いている。 地面には、布を何枚もつぎはぎした巨大な地図が広げられていた。海は藍色の染料で塗られ、山脈は刺繍糸で盛り上がっている。端には、世界の外側を示すらしい白い余白があり、その向こうを目指すのだと、誰かが真顔で言った。傍らには、望遠鏡に見える筒、振り子を吊るした棒、方角を測る木の盤、そして用途のよく分からない針金の輪まで並んでいる。 「ついに、果てを探す時が来た」 会長の三輪が、咳払いひとつで宣言した。皺だらけの指先は震えていたが、その目だけは少年のように光っている。 「我らが長年積み上げた観測は、空の回り方を示している。ならば地の終わりも、必ず辿り着けるはずだ」 返事の代わりに、隣の吉蔵が望遠鏡を逆さに覗き込み、眉をひそめた。 「これ、どっちが先端だ」 「そっちじゃない、反対だ」 「反対がどっちか分からん」 たちまち周囲が騒がしくなった。地図を押さえようとした者が風にあおられて転び、測定器の棒はひっくり返り、誰かが踏んだ針金の輪がころころと転がって、広場の石畳を軽快に跳ねていく。拾い上げたつもりの木の盤は、実は鍋敷きだった。誰もが口々に文句を言いながら、目の前の大騒ぎを本気で立て直そうとしている。 「その地図、東がこっちかい」 「いや、昨日の夜に書き足したから、南が上だ」 「そんな地図で果てが見つかるか」 「だから秘密にしているんだ」 そのやり取りを、広場の外れで見ていた子どもたちが吹き出した。向かいの酒場からも笑い声が漏れる。老人たちは顔を赤くしながらも、やめようとはしない。三輪だけが、散らばった道具を一つずつ拾い上げ、布で磨いていた。 「笑わせておけ」 低い声だった。 「だが、笑われたままで終わるつもりはない」 夜風が地図の端を持ち上げ、白い余白がふわりと揺れた。その無地の場所を見つめて、六人は一瞬だけ黙る。次に何が起こるのか、まだ誰も知らない。ただ、長いあいだ胸の奥で眠っていたものが、今夜ようやく目を覚ましたことだけは、全員がはっきり感じていた。
天動説老人の珍道中
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