エラベノベル堂

粘液の異世界迷宮

全年齢

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1章 / 全10

目を開けた瞬間、見知らぬ木漏れ日が視界に降ってきた。湿った土の匂いが鼻をくすぐり、頬には冷えた草が触れている。どうやら寝台ではないらしい。ゆっくり身を起こすと、頭の奥で鈍い痛みが弾け、昨夜までの記憶が霧のようにほどけた。名前は覚えている。だが、ここがどこなのかがわからない。 立ち上がろうとして、足元の感触に息をのんだ。落ち葉の下に隠れていた黒い土は、妙に柔らかい。森だ。だが、整いすぎてもいないのに、どこか人の手が入っていない気配が濃い。背の高い樹々が天を塞ぎ、遠くで鳥とも獣ともつかない声がひっそり消えた。 それでも、まずは出口を探すしかない。そう思って歩き出した矢先、耳の奥に別の音が滑り込んできた。ぽちゃん、ぽちゃん、と、誰かが水を落としているような、妙に間の抜けた音だ。森に似合わない静けさの中で、その響きだけが不自然に近づいてくる。 嫌な予感がした。足を止め、息を殺す。音はなおも続く。水たまりでもあるのだろうか。だが、こんな森の奥で、規則正しい水音がするものなのか。胸の内に、理由のない焦りがじわりと広がった。 枝の向こうに、淡い光が揺れた。次の瞬間、地面を這うような輪郭がのぞく。半透明の塊が、ゆっくりと樹の根元をすべっていた。まるで大きな雫が意思を持ったかのように、ぷるりと震えながら進んでいる。見間違いであってほしかった。だが、ひとつではない。二つ、三つと、森の陰に小さな不気味さが増えていく。 あれは何だ。問いかけても答える者はいない。ただ、ぽちゃん、という音だけが、まるでこちらを見つけた合図のように近づいてくる。 喉が乾いた。知らない土地で、知らない森で、知らない魔物らしきものに囲まれつつある。僕はようやく理解した。ここは、ただ迷い込んだだけで済む場所ではない。最初の一歩を踏み出した途端、世界そのものが静かに牙を見せてきたのだ。

1章 / 全10

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