町に戻ると、騒ぎは嘘みたいに静まっていた。門の前で身を寄せ合っていた人々は散り、井戸端のざわめきも戻り、石畳には夕暮れの色が薄く伸びている。あれほど不安げだった通りが、今はただの町に見えた。その変化が、かえって現実感を与えなかった。 宿代わりの小さな広場で、僕らはようやく立ち止まった。男は肩の埃を払うと、苦く笑った。結局、派手に壊しただけで終わると思ったが、お前がいなければもっと悪いことになっていた。そう言われ、胸の奥が少しだけ温かくなる。助けられたのは自分のほうだ。何度そう言いかけても、言葉はうまくまとまらなかった。 そこへ、資料館の係員が駆け込んできた。彼女は息を切らしながら、町外れの水路と遺跡の封鎖が進んだと告げる。黒衣の男は見つからない。だが、残された記録から、彼の背後にまだ協力者がいる可能性が浮かんだという。僕は耳を傾けながら、思わず空を見上げた。終わったのではない。ようやく入り口を越えただけなのだ。 それでも、不思議と怖さは薄れていた。森で迷い、粘液に乱され、遺跡で流れをつかみ返した。そのたびに、僕は逃げるだけの人間ではいられなくなっていった。ここで生きるには、この世界の理屈を知らなくてはならない。知らないまま怯えているだけでは、次は守れない。 男が酒場の看板を指した。今夜は飲む。明日からまた歩く。町の外には、まだ行くべき場所がある。彼の言葉に、僕はうなずいた。仲間というにはまだ頼りないかもしれない。でも、同じ方角を見ていることはわかる。 広場の端で、あの粘液に触れた布切れが風に揺れていた。もう脅かされるだけのものではない。僕はそれを見て、静かに息を吸った。異世界に落ちた日から、ずっと足元は揺れていた。けれど今は、その揺れの上に立つ覚悟がある。 町の灯りがひとつ、またひとつともる。僕は仲間たちと並んで、その光の中へ歩き出した。次に待つのがどんな危険でも、もう見知らぬ森の入口で立ち尽くすだけの僕ではない。ここで生きる。ここで学ぶ。ここで、前へ進む。予想もしなかった終わりの先に、新しい旅が始まっていた。
検閲済みプロット
転生した主人公が、危険な魔物スライムに襲われる異世界アドベンチャー。主人公は特殊な粘液の影響で体調や感情が不安定になりながらも、仲間との絆や知恵を頼りに生き延び、事件の真相に迫る。
