エラベノベル堂

八百屋の野菜たち

全年齢

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1章 / 全10

朝の光が、八百屋のガラス戸を薄く白く染めていた。シャッターがまだ半分閉まったままの店先で、木箱に並んだ野菜たちは、ひそひそと息を潜めるように目を覚ます。 「本日も、私がいちばん整っている」 几帳面な大根が、白い身をまっすぐ伸ばして言った。泥ひとつ残さぬよう磨かれた姿は、いかにも働き者らしい。 「いやいや、店の顔っていうのは、見た瞬間に目を引くものでしょ」 隣のトマトが、つややかな赤を誇らしげに光らせる。丸い体を少し揺らし、今にも舞台に飛び出しそうな勢いだった。 その二つの声のあいだで、じゃがいもがころりと向きを変えた。 「顔って、そんなに大事かな。ぼくは、どこにいても自分の仕事をするだけだけど」 眠たげな声は、争いから少し離れたところをふわりと漂う。土の香りをまだ残したままの丸い体は、急いで前に出ようとしない。 大根は少し背筋を伸ばした。 「だらしないのは困る。並びは美しく、説明は正確に。そうでなければ、お客さまに失礼だ」 トマトは負けじと胸を張る。 「でも、最初に目に入るのは勢いだよ。ぼくみたいに元気がなきゃ、朝の店は始まらない」 まだ誰も来ない店の中で、言葉だけが先に賑やかになっていく。キャベツが少し葉を震わせ、にんじんが箱の端で耳を澄ませた。みんな、口には出さずとも、自分なりの誇りを持っている。 そのとき、店の奥から段ボールを抱えた店長の足音が近づいた。野菜たちは、ぴたりと静かになる。けれど静けさの底では、見えない火花がまだ小さく散っていた。 「さて、今日の一番は誰だろうね」 トマトが小さくささやく。 大根は何も答えず、ただまっすぐ前を向いた。その白さは、朝の空気のように澄んでいた。 こうして、開店前の小さな店先では、野菜たちの自己紹介が始まり、やがてそれは、店の顔をめぐる静かな競争へと変わっていく。

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