白衣の襟を整えたまま、ひなたはしばらく鏡の前に立っていた。工場の件は片づいたはずなのに、胸の奥にはまだざらつきが残っている。回収された証拠、逮捕された幹部、静かになった現場。そのどれもが、ようやく終わったという実感を与えてくれる一方で、別の誰かの手がまだ遠くに伸びている気がしてならなかった。 検証室を出ると、廊下はいつも通りの白さを取り戻していた。騒ぎは引いて、足音も少ない。ひなたは歩きながら、ふとポケットの中で固い感触を確かめる。黄ばんだ記録の複写。そこに並ぶ自分の名前は、任務の成果とは別の重さで残っていた。潜入捜査官としての評価ではなく、鍵として扱う、と記された一文。あの紙は、事件が終わっても消えない。 「桜羽原さん、整理は済んだ?」 廊下の先から声がかかり、ひなたは顔を上げた。返事をしようとして、そこで言葉が止まる。手元の端末に、見慣れない通知が一件だけ届いていた。宛先は空白。送信元も記号のような文字列で、どこにも繋がっていない。開けば短い文だけが表示される。 また、君に頼みたいことがある。 それだけだった。地味な一行なのに、背筋が静かに冷える。具体的な場所も、相手も、目的も書かれていない。けれど、ひなたにはわかった。これは偶然ではない。あの記録を見た直後に届くよう仕組まれていたのだと。 彼女は画面を見つめたまま、息を整えた。危機を越えたはずの時間に、こんな依頼が滑り込んでくる。事件は終わったようで、まだ終わっていない。目に見えない糸が、また別の扉へ向かって張られている。 ひなたは端末を閉じ、白衣の袖を軽く引いた。次の現場へ行く準備は、もうできている。だがその前に、今届いたこの依頼の正体を、確かめなければならない。彼女は静かな廊下の先を見据え、誰にも聞こえないほど小さく息を吐いた。
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主人公は女子学生の姿をしている桜羽原ひなた(さくらばら ひなた)。黒髪ポニーテールで白衣を着ており、実は人の活力や感情を増幅させる不思議な能力を持つ新人の潜入捜査官。ドラッグ売買の捜査のため、相手のアジトであるローション工場に単身潜入する。そこで危険な薬物の取引と組織の陰謀に巻き込まれ、逃走、追跡、心理戦、裏切り、救出劇を経て事件の真相に迫る物語へ置き換える。物語の核は、危険な潜入任務、主人公の孤独な覚悟、敵地での緊張感と、組織の壊滅を目指す展開に維持する。
