「桜羽原ひなた君、例の件なんだがね」 AV事務所『ピンクキャットプロダクション』の社長、田代はデスクに肘をついて深刻な表情を浮かべていた。窓の外には夕暮れの街が広がり、オレンジ色の光が薄暗い社長室に差し込んでいる。 「怪しい媚薬が流通してるって話ですか?」 ひなたは社長の向かいにあるソファに座り直しながら尋ねた。艶のある黒髪が肩のあたりで揺れる。表向きは普通の女子学生、しかし裏では新人AV女優として活動する彼女には、特殊な体質があった。密接接触した相手の精力を異常に増幅させるという特異体質である。 「ああ。業界全体が騒ぎになっているんだよ。使用した女優が意識を失うほどの快感でショック状態になる、あるいは男優が異常な持続力を発揮して収拾がつかなくなる。そんな報告が相次いでいてね」 田代はデスクの上の書類を指先で叩いた。 「それで、その媚薬の出どころは特定できたんですか?」 「県境近郊にあるローション製造工場だ。表向きは普通の潤滑剤メーカーだが、裏で怪しげな成分を配合した商品を出荷している疑惑がある」 ひなたは小首を傾げた。 「警察に通報すればいいじゃないですか」 「それができないんだよ。あの工場、地元有力者のバックがついていてね。警察も簡単には動けない。それに、違法成分のサンプル確保が先決だ」 田代は立ち上がり、ひなたの前に一枚の写真を置いた。古びた工場施設が写っている。 「そこで君に頼みがあるんだ、ひなた君。学生という身分を利用して、見学希望の女子学生として潜入してほしい」 「私が?」 「君なら怪しまれない。それに、いざという時の護身もできるだろう」 ひなたは自身の体質を思い出した。接触した相手の精力を増幅させる能力は、諸刃の剣だ。防御にも攻撃にも使えるが、状況によっては事態を悪化させる恐れもある。 「わかりました。引き受けます」 「すまないね。報酬はいつもの三倍出そう」 ひなたは微笑んで立ち上がった。 「準備してきます。いつもの格好で」 数時間後、ひなたは指定された場所に立っていた。白い白衣の下には黒のスクール水着を着用している。一見すると科学実験に行く学生に見えるが、水着のラインが白衣越しにうっすらと浮き上がっているあたり、明らかに不自然な格好だった。 「さて、始めるとしますか」 ひなたは工場の正門に向かって歩き出した。夕闇が迫る中、無機質な建物が不気味な影を落としている。潜入捜査の依頼を受けた時点で、すでに彼女は通常の学生生活から逸脱していた。だがこれこそが、彼女が選んだ日常なのだ。
媚薬まみれの潜入は過酷だ
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