エラベノベル堂

終点、魔法少女の受胎

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1章 / 全10

「今日もぎゅう詰めだな……」 桜羽原ひなたは、白衣の裾を整えながらため息をついた。夕暮れ時の駅のホームには、帰宅を急ぐサラリーマンや学生で溢れかえっている。電車が到着するアナウンスとともに、彼女は人波の流れに押されるように車内へと滑り込んだ。 「すみません、詰めてください」 誰かの声に促され、さらに奥へと進む。背中に押し付けられる誰かの鞄、脇から伸びてくる腕。圧迫感の中で、ひなたは白衣の下に着込んだ黒いスクール水着が肌に張り付く感覚を意識していた。通学路として使うこの路線は、いつも以上の混雑に見舞われている。 「……なんだか、蒸し暑い」 車内の空気が重い。エアコンは効いているはずなのに、肌にまとわりつくような湿気がある。周囲の乗客たちも不快感を露わにし、首筋や腕を擦っている者が目立つ。ひなたは違和感の正体を探ろうと、視線を巡らせた。 その時だ。天井の換気口から、ぬらりとした何かが垂れ落ちた。 「え……?」 粘液質のそれが、ひなたの肩口を濡らす。白衣に染み込んだ液体は、不思議な熱を帯びていた。甘い香りが鼻腔をくすぐる。花のようでもあり、腐果のようでもある、鼻に絡みつくような匂い。 「っ……!」 肩を濡らした液体が、じわりと熱を持って肌へと浸透していく。痺れるような感覚が首筋から鎖骨へと広がり、呼吸が浅くなる。天井を見上げると、換気口の隙間から何本もの細い触手がにゅるりと伸びていた。 「な、何これ……!」 悲鳴を上げようとした瞬間、隣にいた会社員風の男性が突然、両手で顔を覆ってうめき声を上げた。 「うあ……ああっ……」 彼の瞳が、焦点を失って潤んでいる。熱い吐息を漏らしながら、男性はひなたの方へと倒れ込んできた。 「ちょっ、離れてください!」 押し返そうとした腕に力が入らない。先ほどの液体のせいだ。身体が火照り、力が抜けていく。 車内のあちこちで異変が起きている。乗客たちが互いに抱き合い、荒い息を漏らし始めているのだ。換気口からはさらに多くの触手が伸び、甘い霧のようなものを車内に撒き散らしていた。 「くっ……このままじゃ……!」 ひなたは魔法少女としての力を使おうと、ポケットの中の変身具に手を伸ばした。だが、狭い車内で身動きは取れない。周囲の乗客たちが、熱に浮かされたように彼女の方へと群がり始めたのだ。

1章 / 全10

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