「うぅ……」 ひなたが重い瞼を持ち上げると、電車はすでに次の駅に到着していた。アナウンスが日常的な声で次の停車駅を告げている。 「ここ……?」 周囲を見渡すと、乗客たちは何事もなかったかのように立ち上がり、降りようとしていた。先ほどまでの虚ろな瞳も、獣のような唸り声も、どこかへ消え失せている。 「あの……大丈夫ですか?」 隣に立っていたサラリーマンが、ひなたに手を差し伸べてきた。その表情は心配そうな、ごく普通の通勤客のものだ。 「えっ……?」 「いや、座り込んでたから。体調悪いんですか?」 ひなたは言葉を失った。この人は、さっきまでわたしを……。 「あ、ありがとう……ございます」 震える手で受け取った助力で立ち上がる。白衣はボタンが弾け飛んだままだったが、周囲の乗客たちは誰も気に留めていない様子だった。 「いやあ、今日はなんか疲れちゃってさ。俺も途中で意識飛んじゃったよ」 「本当だよね。なんか変な夢見てた気がする」 乗客たちが何気ない会話を交わしながら、ホームへと歩いていく。誰も、車内で起きた出来事を覚えていないようだった。 (みんな……記憶がないの?) ひなたは自分の体を抱きしめた。スクール水着の下、太ももの内側には、まだ粘液の感触が残っている。 「うっ……」 ふと、下腹部に鈍い疼きが走った。トイレに行かなければならないという切迫した感覚ではない。もっと深く、体内の奥底から湧き上がるような、甘い疼きだ。 「これは……」 白衣の裾をめくり、お腹に手を添える。そして、息を呑んだ。 へその下、下腹部の中央に、黒紫色の痣のようなものが浮かんでいた。触手の紋章のように複雑な模様を描いている。 「嘘……こんなもの……」 指で触れると、痣は熱を帯びていた。そして同時に、子宮の奥で痺れるような快感が蘇る。 「あっ……」 思わず声が漏れる。痣に触れただけなのに、体の芯が熱く蕰(とろ)けていく。 「いや……まさか……」 ひなたは悟った。この痣は、ただの傷跡ではない。触手が彼女の体に刻んだ 「所有の証」 だ。 (わたし……もう、普通の人間には戻れない) 電車が発車していく。ホームに残されたひなたは、虚空を見つめたまま動けなかった。 日常は戻った。誰も何も覚えていない。しかし、彼女だけが、永遠にこの刻印を背負い続ける。 「あぁ……これからどうしよう……」 その時、下腹部の痣が淡く発光した気がした。まるで、まだ終わっていないことを告げるかのように。 ひなたの体が小さく震える。刻印は、ただの傷跡ではなかった。それは彼女自身が、次なる脅威を引き寄せる磁石になってしまったことを意味していた。 「嘘……そんな……」 日常の皮膜の下で、何かが確実に変質してしまった。桜羽原ひなたは、もう二度と、普通の研究員としての日常には戻れないのだ。
検閲済みプロット
主人公が満員電車に乗ると、突如として現れた触手と操られた乗客たちに襲われる。魔法少女として抵抗するひなただが、濃厚な愛撫と行為に翻弄され、最終的に予想外の結末を迎える。




















