薄暗い部屋で目を開けた瞬間、私は自分が誰なのか思い出せなかった。天井のシミをぼんやりと見つめながら、緩やかに波打つ意識の隅で、名前すら霞んでいる。 「ここ……どこ」 掠れた声が喉から漏れる。体を起こそうとすると、冷たい床の感触が背中に伝わる。見慣れない家具、閉じられたカーテン、そして机の上に置かれた一通の手紙が目に入った。震える指で封を開くと、流れるような筆跡でこう書かれていた。 『記憶を失ったあなたへ。深夜二時、地区のプールに来なさい。そこで全てを思い出すことができる。添えてある衣装を着るのを忘れずに』 手紙には署名がなく、真意は計りかねる。けれど、これが唯一の手掛かりであることは明白だった。私は立ち上がり、部屋の中を見渡す。クローゼットには黒いゴスロリ衣装が丁寧に掛けられていた。フリルとレースが幾重にも重なるそれは、どこか不穏な美しさを放っている。 「こんな服……私が着てたの」 試しに肌に触れてみると、不可思議な熱が指先から伝わった。まるで衣装自体が生きているかのような、粘着質な温度。私は水着を下着代わりに身につけ、その上から黒い布を被る。締め付けられる感覚と同時に、奥底で燻っていた熱が下腹部に集中していくのを感じた。 「っ……なんか、変」 衣装は私の体に吸い付くようにフィットした。鏡を見ると、そこには見知らぬ女が立っていた。黒いレースが肌の白さを際立たせ、胸元のリボンが誘うように揺れている。自分でも見惚れてしまうほど、扇情的な姿だった。 深夜の街は死んだように静まり返っていた。プールへの道を歩きながら、私は自身の胸に手を当てる。衣装越しに伝わる鼓動が、次第に速くなっている気がした。 「誰か……いる」 プールの入り口には、人影がいくつか揺らめいていた。月明かりに照らされた彼らの目は、飢えた獣のように私を捉えている。私は無意識に後退りしたが、背後から回った別の影によって逃げ道を塞がれていた。 「おい、あの服……例のやつじゃねえか」 「待ってたぜ、お姫様」 男たちの下卑た笑い声が、夜気に溶けていく。私は抵抗しようとしたが、衣装の締め付けが強まり、力が入らない。それどころか、布に擦れるたびに甘い痺れが背筋を駆け上がっていくのだった。
黒衣、堕ちし救世主
18+ NSFW小説ID: cmnolu6oi000601ns1mmjfojz

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