「ミクさん、ミクさん! しっかりしてください!」 耳元で叫ぶ声に引き戻されるように、私は重い瞼を持ち上げた。白い天井がぼやけて見える。消毒液の匂い。ここは病院だ。 「……事故?」 「はい。厨房でのガス爆発です。奇迹的に外傷はないんですが、一週間昏睡状態で……」 看護師の言葉が遠くで響く。パティシエとして働いていた店での事故。記憶が断片的に蘇る。シュークリームの中身を詰めていた時の、あの爆発音。 「先生が来ますから、少しお待ちを」 看護師が出て行くと、病室に静寂が戻った。私はゆっくりと体を起こす。問題なく動く。むしろ、以前より体が軽いような気さえする。 「よかった……」 安堵した瞬間だった。胸の奥から熱いものがこみ上げてくる感覚。まるで炭酸が弾けるように、感情が泡となって体中を駆け巡る。 「あっ……?」 自分の腕を見て息を呑んだ。肌の表面から、透明な泡が次々と浮き上がっている。それは汗のような粘り気を持ちながら、甘いバニラのような香りを漂わせていた。 「なにこれ……嘘でしょ……」 震える指先で泡に触れると、それはするりと肌を滑り落ちてシーツに染み込んだ。恐怖が増すほど、泡の量は増えていく。 「落ち着いて……落ち着くのよ、ミク」 深呼吸を繰り返すと、泡は徐々に収まっていった。でも確信していた。これは私が感じた感情、そのものだ。喜びも恐怖も、今の私にとっては目に見える形となって溢れ出してしまう。 「転生……なの?」 誰に問うでもなく呟く。あの事故で一度死んで、そして生まれ変わった。そう考えるしかなかった。 病室のドアがノックされ、初老の医師が入ってくる。その背後に、見知らぬ男の姿があった。鋭い目つき、不審なほどに整った顔立ち。三十代半ばほどに見えるその男は、私をじっと見つめている。 「体調はいかがですか? 検査の結果、異常はない。退院の許可が出ますよ」 医師の言葉に頷きながら、私は男から目が離せなかった。なぜか心臓が早鐘を打っている。 「君がミクだね」 男が口を開いた。低い、よく響く声。 「どなたですか?」 「父だよ。未来から来た」
泡に溶かされる心
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