「父……さん? 未来から?」 あまりに突飛な言葉に、私は呆然と彼を見返した。医師は困ったような顔で 「お二人でお話しください」 と言い残し、病室を出て行く。 「信じられないのは分かる。だが、見てください」 男は懐から古びた写真を取り出した。そこには幼い頃の私と、今の彼と変わらない姿の男が並んで写っている。 「これは……」 「二十年後の世界で、あなたは人類を救う鍵となる。その特異体質は、憎しみや悲しみを浄化する力があるんだ」 彼が一歩近づくと、私は無意識に後ずさった。緊張が高まるにつれ、また肌から泡が溢れ始める。 「あっ……」 「落ち着いて。怖がらないでいい」 彼は優しく私の肩を掴み、ベッドに座らせた。そして黒い革の袋から二つの物を取り出す。 一つは、手のひらサイズの古びた木製のこけし。もう一つは、少し傷んだ電動マッサージ器だった。 「これは家宝だ。私たちの血筋に代々伝わるもの」 「こけしと……マッサージ器が?」 「見た目は奇妙だが、特別な力を秘めている。感情が暴走した時、これらで鎮めることができる」 彼はこけしを私の手に握らせた。不思議な温かさが掌に広がる。 「それと、このマッサージ器は……その、女性特有の悩みにも効く」 彼が少し照れたように付け加える。その仕草に、ふと父親らしい温かさを感じた。 「なぜ私なの?」 「あなたの心が、誰よりも純粋だからだ。その泡は感情の結晶。愛も喜びも、すべて美しい形で具現化できる」 彼は私の頬に手を添えた。 「ミク、未来では人々が感情を失いつつある。あなたの力が必要なんだ」 「でも、私……パティシエに戻りたい。普通の生活がしたい」 「分かっている。だが、敵もあなたを狙っている。その体質の秘密を知る者たちが」 彼は真剣な眼差しで私を見つめた。 「こけしとマッサージ器を常に身につけていて。いざという時、きっと助けになる」 窓の外で雷が鳴り、病室が一瞬暗くなる。その瞬間、彼の姿が揺らいだように見えた。 「待って、お父さん!」 呼び止めた時には、彼の姿は消えかけていた。 「また会えるよ。必ず」 その声だけを残して、彼はいなくなった。私の手にはこけしとマッサージ器だけが残されている。 「これから……どうすればいいの?」 答えはなく、ただ雨音だけが窓を叩いていた。胸の奥で熱いものが疼く。それは恐怖か、それとも未知への期待なのか、私自身にも分からなかった。
泡に溶かされる心
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