エラベノベル堂

瑞希、快楽の刻

18+ NSFW

小説ID: cmnq54fcr000f01mlqzoz77ml

1章 / 全10

真夏の陽射しが容赦なく降り注ぐ海水浴場、瑞希は波打ち際で意識を取り戻した。身体中が鉛のように重く、頭の中は霧がかかったようにはっきりしない。最後に覚えているのは、職員室で期末テストの採点をしていたことだけ。どうしてここにいるのか、そもそも今日が休みだったのかさえ定かではない。 「お嬢さん、大丈夫かね」 しわがれた声に顔を上げると、日焼けした老人が心配そうに覗き込んでいた。麦わら帽子の下にある深く刻まれた皺、鋭い視線。瑞希はぼんやりとした意識の中で、この人物をどこかで見知っているような感覚に囚われる。 「……私は」 「無理に喋らなくていい。とりあえず、送っていこう」 老人は源治と名乗った。彼の車でアパートまで送ってもらう間、瑞希は断片的な記憶をたどろうとするが、何も浮かんでこない。教師としての日々、婚約者の顔、日常の風景。すべてがガラスの向こうにあるように遠い。 「隣に越してきたばかりでね。まさか同じ建物の人だったとは」 アパートの駐車場で源治はそう言って微笑んだ。隣人、という言葉に瑞希は安堵する。見知らぬ他人ではない、その事実が今は心強い。 自室に戻った瑞希は、酷い倦怠感に襲われながらも着替えようとクローゼットを開けた。そこで手が止まる。整理整頓されたはずの棚の奥に、見覚えのない二つの物が押し込まれていた。 一つは黒い表紙の日記帳。金色の封蝋で厳重に閉ざされている。もう一つは、畳まれたスクール水着。使用感のある生地には微かに塩の匂いが染み付いていた。 瑞希の手が震える。これらは自分の物ではないはずだ。けれど指先が水着に触れた瞬間、脳裏に閃光のような情景が走った。暗い海、冷たい水、そして誰かの呼ぶ声。 『戻ってきて……約束の場所へ』 幻聴なのか、封印された日記が不気味に膨らんでいるように見える。瑞希は恐怖を振り払うようにクローゼットを閉めたが、背後で源治の声がした。 「見つけたようだね」 振り返ると、いつの間にか開いていたドアに源治が立っている。その表情は先程までの好々爺それとは別人のように冷ややかで、瑞希は本能的な恐怖を覚えた。 「それには触れないほうがいい。……君自身のために」

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