エラベノベル堂

吹き出す本音、未来を変える

全年齢

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10章 / 全10

管理棟の最上階は、ひどく静かだった。壁一面のガラスの向こうに、夜の街が薄く沈んでいる。机の前には白髪混じりの男が一人立ち、こちらを見ても動じなかった。あの吹き出しを配っていた気配の中心が、ようやく形になった気がした。 「来たか」 男の頭上に、冷たい文字が浮かぶ。 「予定より少し早い」 その一文に、俺の胸がざわついた。予定。まるで、俺の人生まで台本の一部みたいだ。 妹が前へ出る。 「もう終わりよ」 男は笑わない。 「終わるのは、改変の失敗だけだ」 机の上に広げられていたのは、こけしの底と同じ紋様が描かれた設計図だった。未来の出来事を固定し、都合の悪い分岐を消す仕組み。そこへマッサージ機を接続すると、こけしの中で眠っていた記憶が急にざわめいた。俺の手の中で木肌が熱を持ち、頭の上の吹き出しが膨らむ。 「怖い。でも、書ける」 その文は、俺のものだけじゃなかった。妹の迷いも、黒いパーカーの男の後悔も、全部が重なっていた。俺は初めて、吹き出しを隠したいと思わなかった。恥ずかしさも弱さも、そのまま物語にできる。そう思った瞬間、こけしの底板が外れ、古い紙片が舞い落ちた。 そこに記されていたのは、黒幕が消したかった過去だった。家宝のこけしは、未来を壊す鍵ではなく、奪われた記憶を保つ器だったのだ。妹が息をのむ。 「やっぱり、これだったんだ」 男が顔色を変えるより早く、俺はマッサージ機のスイッチを入れ、こけしに押し当てた。低い振動が木の奥へ染み込み、封じられていた記憶が光になってほどけていく。部屋中の設計図がばらばらに揺れ、壁の文字が崩れた。 「固定不能」 吹き出しが次々と乱れ、男の頭上からも冷たい文が剥がれ落ちる。 「まさか、書き手側が受け入れるとは」 誰の声かも分からないその一文を最後に、装置は静かに止まった。遠くで警報が鳴り、管理棟全体がざわめき始める。だが、もう遅い。改ざんの流れは切れ、黒幕の計画は瓦解した。 男は膝をつき、パーカーの肩を震わせた。 「俺も、ただの駒だった」 妹は一瞬だけ黙り、それから彼を見下ろした。 「なら、ここからは自分で償って」 それは冷たい言葉のようでいて、救いでもあった。妹が俺の隣に立つ。肩が触れた。たったそれだけで、家族という言葉が、やっと本物になった気がした。 外に出たのは、夜が明けかけたころだった。吹き出しは消えない。けれど、もう怖くない。俺はスマホを開き、新しい同人誌の原稿欄に、今日の出来事を書き始めた。奇妙で、みっともなくて、少しだけ誇らしい物語だ。 吹き出しは自分の心を暴くものではなく、形にできなかった本音を拾うための道具だった。妹は隣で原稿を覗き込み、ふっと息を漏らす。 「それ、次の未来に繋がるかもね」 俺は笑った。まさか、現実を変える鍵が、俺の創作になるなんて。けれど、今なら分かる。書くことは逃げじゃない。選び直すことだ。 朝焼けの下で、吹き出しは小さく揺れ、次の一文を待っていた。

検閲済みプロット

主人公は同人作家で、ソロキャンプ中に自分の心の声が吹き出しとして見えるようになってしまう。義理の妹は主人公を深く大切に思っており、未来の危機を防ごうと奔走する。家宝のこけしと電動式のマッサージ機が物語の鍵となる。主人公は理不尽な脅威に巻き込まれ、深い屈辱とともに復讐心を抱く。主人公はDカップ。

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