「結仁くん、そこの棚の奥から順に整理しておいて。あ、怪我しないようにね」 事務室の冷房が効いた空気の中、バイト先輩の女性が書類の束を抱えながら声をかけてくる。俺は軽く手を振って答え、埃っぽい棚の方へと足を向けた。 「はい、わかりました」 不幸体質の俺にとって、こういう単純作業は逆に安心できる。余計なトラブルに巻き込まれる心配も少ないし、黙々と作業を進めればいいからだ。 棚の奥に手を伸ばすと、指先が何か革のような質感のものに触れた。引っ張り出してみると、それは古びた一冊の日記だった。表紙は黒革で、何重にも紐で封印されている。 「なんだこれ……かなり古そうだけど」 埃を被ったその日記は、どこか異質な存在感を放っていた。傍に置いてあった他の書類やファイルとは明らかに違う。まるで最初からそこにあるべきものとして、長い時を待っていたかのように。 俺は無意識に封印の紐に指をかけていた。 その瞬間、棚の上から分厚いファイルが雪崩のように落ちてきた。 「うわっ!」 慌てて身をよじって避けるが、足元で重い音が響く。床に散らばったファイルを呆然と見下ろしていると、事務室のドアが開いた。 「結仁くん、大丈夫? また何かあった?」 「……すみません、棚から文件が落ちてきただけです。怪我はありません」 先輩の呆れたような、でも心配そうな視線を背中に感じながら、俺は屈み込んで散らばったファイルを拾い集める。不幸体質だからな、こういうことは日常茶飯事だ。 でも不思議と嫌な気分じゃなかった。むしろ、胸の奥がざわつくような、奇妙な高揚感がある。 日記に触れた指先が、まだ熱を持っているような気がした。
不幸を愛に変える
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