エラベノベル堂

奪われし記憶、魔女の刻

18+ NSFW

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1章 / 全10

深夜の街は静寂に包まれていた。通りの灯りがまばらに灯るだけの時間帯、喫茶店の扉が開く音だけが響く。 「いらっしゃいませ」 マスターの雅樹が穏やかな声で迎える。常連である人妻の玲奈は、いつものように店の奥の席へと向かった。 「今日も遅くまで勉強ですか?」 「はい、来月の試験に向けて……」 玲奈は参考書を広げ、ノートを取り出す。カウンターの中で雅樹が豆を挽く音が心地よく響く。彼女は資格取得を目指して夜学に通い始めて三ヶ月。夫が単身赴任で不在の間、自分を磨こうと決めたのだ。 「コーヒー、いつものでいいですか?」 「お願いします」 玲奈はページをめくりながら、専門用語の意味をノートに書き写していく。喫茶店には彼女一人だけ。壁の時計が午前二時を指していた。 「お疲れ様です、どうぞ」 雅樹がテーブルにカップを置く。立ち上る湯気とともに、いつもと違う甘い香りが鼻をくすぐる。 「これは……?」 「新しく入れた豆でしてね、ぜひ味わっていただきたくて」 「そうですか、ありがとうございます」 玲奈はカップを手に取り、一口だけ口に含んだ。芳醇な香りが口いっぱいに広がる。 「美味しい……」 彼女はふと、視界が少しぼやけたような感覚を覚えた。 「大丈夫ですか?顔が赤いようですが」 「ちょっと……暑くて」 玲奈は首筋に指を当てる。心臓の鼓動が早くなっていることに気づく。 「顔が熱い……」 「ゆっくりなさってください、閉店は気にしないで」 雅樹の声が遠くから聞こえるような感覚。玲奈は瞬きをしたが、まぶたが重くなっていた。 「私……どうしたんだろう……」 ノートの文字が二重に見える。彼女は机に肘をつき、頭を支えようとした。 「眠気……それとも……」 思考がまとまらない。玲奈は雅樹の顔を見上げた。彼は静かに微笑んでいる。 「安心してください、すぐに楽になりますから」 その言葉の意味を考える前に、玲奈の意識は暗闇へと沈んでいった。最後に感じたのは、甘い香りと、誰かの腕が自分を支える感触だけだった。

1章 / 全10

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