エラベノベル堂

二つの心を束ねて

全年齢

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10章 / 全10

健太は祠の前で、ひとつ深く息を吸った。夜明け前の空は薄青く、壊れかけた世界の端に、まだ静けさが残っていた。真鍋は断片を掲げたまま、目を閉じている。封印を解けば救えるものがある。だがその先に残る傷を、誰が抱えるのか。答えは誰の胸にもなかった。 健太の中で、あの冷たい声が言った。今なら終わらせられる。けれど、表の自分は首を振った。終わらせるためじゃない。戻るためだ。怖がりで、気を遣いすぎて、何度も立ち止まってきた自分。必要以上に前へ出て、言わなくていいことまで切り捨ててきた自分。そのどちらも、本当は自分だった。 「分かった。もう分けない」 声に出した瞬間、胸の奥で何かがほどけた。二つの呼吸が重なり、冷たさは鋭さを失わずに、温度だけを得ていく。表の自分が持っていたためらいは、他人を見捨てない優しさになる。もう一人が持っていた決断の速さは、誰かを傷つけるためではなく、守るための刃になる。互いに欠けていた部分が、ようやく埋まった。 真鍋が目を開けた。彼もまた、壊すか守るかの二択を越えた顔をしていた。 「閉じ直す」 短い言葉だったが、それで十分だった。断片は強い光を放ち、暴れかけた力を押し返すように輪を描く。健太は拘束具を手に取り、設計図にあった逆向きの筋へ指を滑らせた。器は締めつけるためのものではない。溢れたものを受け止め、壊れない形へ戻すための仕組みだ。噂は歪んで伝わっていたが、核心だけは真実だった。 遠くで悲鳴に似た風が鳴り、裏切り者たちの足音が途切れた。世界は崩れなかった。均衡は、派手ではない方法で保たれたのだ。やがて空が白み、健太の携帯が震える。紗耶香だった。少し寝ぼけた声で、朝ごはんの卵が足りないと文句を言ってくる。その何気ない一言に、健太は目を細めた。 失ったと思っていたものは、完全には消えていなかった。組の後始末も、真鍋の役目も、まだ終わっていない。だが、それは破滅の続きではなく、やり直しの始まりだった。健太は携帯をしまい、焚き火の残り火のような明るさを見つめる。大きな戦いの末に戻る場所としては、あまりに平凡で、あまりに優しい。だからこそ、選ぶ価値があった。 彼はもう、以前の自分ではなかった。だが、以前の生活に戻ることを恥じてもいなかった。静かな日常は逃げ場所ではない。守り抜いた先にある、新しい暮らしだった。健太はそう思いながら、まだ冷たい朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

検閲済みプロット

主人公は事務職のアルバイトで、ソロキャンプ中に思いがけず裏社会の首領の立場を引き継いでしまう。部活のキャプテンは世界を揺るがす鍵を受け継ぐ者として、封印された力を解放しようとしている。周囲の感情を強く揺さぶる特異体質と、物語の重要な鍵となる拘束具が絡み合う。催眠術を操る一味に大切な人を奪われた主人公は、自分自身の新たな可能性を探り始める。主人公には二重人格の側面があり、眠ると奔放で危ういもう一人の自分が現れる。

10章 / 全10

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