エラベノベル堂

二つの心を束ねて

全年齢

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3章 / 全10

健太が組の者たちを集めたのは、駅裏の古い貸し会議室だった。昼間は不動産屋の説明会に使われるような、妙に明るい蛍光灯の下で、男たちは黙って彼を見ていた。みな黒い服を着ているのに、居心地の悪さだけは隠せていない。年長の男が腕を組み、若い男は足先を落ち着かなく揺らし、誰もが新しい頭を値踏みしていた。 健太は背筋を伸ばした。怖くないと言えば嘘になる。だが怖いと顔に出せば、目の前の空気がさらに固くなることを、彼の体はもう知っていた。人の感情が波のように流れ込んでくる。警戒、疑念、好奇心、軽い反発。それらが混ざるたび、胃のあたりが冷えていく。 「ええと、まずは、ありがとう」 自分でも驚くほど間の抜けた言葉だった。部屋の空気が一瞬ゆるむ。だが次の瞬間、奥にいた一人が小さく鼻で笑った。健太はその音を拾いすぎた。拾ったぶんだけ、胸の奥がざらつく。 「俺はまだ何もしていない。むしろ、何も分からない。だから、分かるやつに教えてほしい」 正直な言葉だった。けれど、正直さは必ずしも信頼に変わらない。沈黙が落ちる。健太はその重さに耐えながら、机の上の帳簿に視線を落とした。金の流れは整っているようで、穴だらけだった。誰かが意図的に抜いている。 「信じろって言うなら、まず名前を覚えたい」 そう続けたとき、若い男がぽつりと自分の名前を名乗った。すると、それをきっかけに他の者も順に口を開く。ぎこちないが、ようやく人の輪ができた気がした。 その直後だった。健太の耳鳴りが強くなり、部屋の温度が一段下がったように感じた。誰かが不安を抱いた拍子に、こちらの感情まで引きずられる。違う、これは自分の不安だ。そう思おうとしたのに、頭の奥で別の声が、笑うようにささやいた。 そんなに気を遣う必要はない 健太は背筋を強張らせた。誰も気づいていない。だが確かに、もう一人の自分が、喉の奥で息をしている。 会議は散々だった。前向きにまとめようとするほど空気がずれ、ほめれば疑われ、黙れば不機嫌に見える。健太は何度も言い直し、そのたびに自分の未熟さを思い知らされた。終わるころには、信頼を得るどころか、責任だけが肩に食い込んでいた。 帰り道、スマートフォンに一件のメッセージが届く。差出人不明。たった一文だった。 その声は、お前のものか 健太は立ち止まり、暗いガラスに映る自分を見た。そこには、疲れ切った顔の下に、見覚えのない冷静さが薄く重なっていた。

3章 / 全10

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