エラベノベル堂

二つの心を束ねて

全年齢

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2章 / 全10

健太は翌朝、眠れないまま崖の上の駐車場に立っていた。山の空気は澄んでいるのに、昨夜の金属の冷たさだけが掌に残っている。あの男は救急車に乗せられる前、何度も同じ言葉を繰り返した。今夜から、お前がまとめろ。冗談にしては顔色が悪すぎたし、見知らぬ二人組が遠巻きにこちらを見ていたのも気になっていた。健太は事務のバイトしか取り柄のない自分が、何をどうまとめるのか考えるほど、頭が白くなるのを覚えた。 スマートフォンが震えた。知らない番号だった。出ると、低い声が一言だけ告げた。会いたいなら駅前の喫茶店へ来い。拒む理由はないはずだ、と。切れた通話の余韻に、健太は肩をすくめた。拒む理由がないというより、拒んだら困る相手なのだろう。そんな勘は、なぜか外れなかった。 喫茶店の奥で待っていたのは、年齢の読めない女性だった。黒いスーツに身を包み、指先だけが妙に白い。彼女は健太を見るなり、深くも浅くもない礼をした。 「昨夜の件で、あなたは正式に引き継ぎました。いまの言い方が嫌なら、仮の後継でも構いません」 「何の話ですか」 「裏の帳尻を合わせる仕事です」 健太は言葉を失った。裏社会と聞いても、映画の中の遠い話にしか思えない。だが女性の言い方には、冗談を混ぜる余地がなかった。彼女は組織の名前を告げ、帳簿の束のように冷静に、いくつもの勢力がいまも静かにこちらを見張っていると説明した。健太の耳には、その一つひとつが重すぎた。 しかも、同じころ別の場所でも異変が進んでいるらしい。女性は別の写真を差し出した。そこに写っていたのは、健太の高校時代の部活のキャプテン、真鍋だった。昔と変わらない背筋の伸び方なのに、目だけが知らない遠さを帯びている。 「こちらは世界の均衡を預かる鍵を継いだ者です」 「鍵?」 「はい。壊せば広がるものを閉じ、閉じれば保たれるものを解く。そのどちらもできる存在です」 健太は写真を見つめたまま、乾いた笑いを漏らした。裏社会の後継と、世界の鍵。自分の知らないところで、ありえない二つの異変が同じ時代に進んでいる。しかも自分は、その片方の中心に放り込まれたばかりらしい。 窓の外を行き交う人々は、いつも通りの顔をしていた。健太だけが、今朝から別の温度の世界に立っている。彼は無意識に指先を握りしめた。その動きに合わせるように、胸の奥で、もうひとつの何かが静かに目を覚まそうとしていた。

2章 / 全10

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