対策委員会の会議室に、朝の空気を押し潰すような男が入ってきた。扉を開けたというより、そこにあった境界を無視して現れたようだった。黒いコートの裾が静かに揺れ、視線だけで部屋の温度が一段下がる。誰もが立ち上がれずにいる中、委員長の千尋だけが喉を鳴らして前に出た。 「あなたは、誰ですか」 男は椅子に腰かけるでもなく、机にもたれるでもなく、ただ部屋の中央に立った。肩幅は広く、姿勢は崩れているのに、そこにいるだけで全員の呼吸が浅くなる。顔立ちは整っているのに、笑う気配がない。だが次の瞬間、彼は窓際のカーテンのわずかな揺れを見て、短く言った。 「外で待たせている連中がいる。三人。焦ってるな。入口の陰に一人、見張りもどきがいる。さっさと締めろ」 誰も動かなかった。動けなかった、が正しい。千尋の背筋を冷たいものが走る。会議室の外では、学園の設備を狙う不審な気配が前日から続いていた。けれど、それを知る者は限られている。男は一度も事情を聞かずに、危険の形だけを言い当てていた。 「あなた、どうしてそれを」 「見ればわかる」 あまりに雑な答えだった。だが言い切った声に迷いがない。男は窓の鍵を確かめ、壁際に置かれた避難用の器具を一瞥し、それから全員を見渡した。視線は鋭いのに、不思議と逃げ場を探しているのではなく、生き残る場所を測っているように感じられた。 「お前たちはまだ間に合う。だが、待っているだけでは終わる」 その言葉が落ちた瞬間、廊下の向こうで何かが倒れる鈍い音がした。委員会の面々が息を呑むより早く、男は扉に手をかける。開け放った先には、戸惑いながらも侵入の機をうかがっていた二人組がいた。男は拳を振り上げない。ただ一歩踏み出しただけで、相手は本能的に後ずさる。 「ここは通さない」 それだけだった。なのに、廊下に満ちていた濁った空気が、薄い氷が砕けるように散っていく。千尋はその背中を見て、ようやく理解した。この男は助けを乞うために来たのではない。逃げる理由を奪いに来たのだと。 男は振り返らないまま、低く言った。 「対策委員会だろう。なら、守る覚悟を決めろ」
規格外の先生
全年齢小説ID: cmnu9t3ck000g01s8jg5de6f4
