エラベノベル堂

規格外の先生

全年齢

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10章 / 全10

深部へ続く通路は、異様なほど静かだった。重い警告音が遠ざかるたび、千尋は自分の呼吸だけがやけに大きく感じられた。前を行く梓は肩に力を入れ、沙耶は苛立ちを噛み殺すように唇を結び、彩乃は端末を抱えたまま周囲の数を拾い続けている。誰も先を急ぎすぎない。それだけで、かつての対策委員会とは違っていた。 最奥の扉の前で、黒いコートの男が立ち止まる。彼は扉に手をかけず、ただ千尋たちを振り返った。 「ここから先は、お前たちで決めろ」 「先生は来ないんですか」 千尋の問いに、男は短く笑うでもなく答えた。 「来たら、またお前たちは俺を見る。今度は、自分で選べなくなる」 その言葉は冷たかった。けれど、今の千尋にはわかった。突き放しているのではない。選ぶ瞬間まで奪わないために、あえて距離を置いているのだ。 扉の向こうでは、学園全域を縛っていた非常回路が最後のうめきを上げていた。誰かが仕掛けた閉鎖装置。壊せば助かるが、下手をすれば校内の広い範囲が使えなくなる。梓が一歩踏み出し、沙耶が即座に続く。 「私が開ける」 「私が止める。力任せじゃだめだろ」 彩乃が地図を見つめる。 「待って。解除順がある。ここ、先に左を落とすと全体が崩れるけど、中央の負荷を逃がせば全部は止まらない」 千尋はその表示を見て、胸の奥で何かが静かに噛み合うのを感じた。以前なら、誰か一人が決めていた。今は違う。聞いて、考えて、選んでいる。 「やろう」 千尋の声に、三人が頷く。 梓が先に制御盤へ飛び込み、沙耶が周囲の干渉を断ち、彩乃が数字を読み上げる。千尋は全体を見て、足りない一手をすぐ言葉にした。男は扉の前から動かない。ただ、最後の一瞬だけ短く言う。 「そうだ。それでいい」 その一言が背を押した。解除音が走り、学園を包んでいた重い鎖がひとつずつ外れていく。警告音は途切れ、代わりに非常灯が穏やかな白へ戻った。 閉鎖装置の中心にあったのは、古い記録端末だった。そこに残っていたのは、学園を守るための最終権限ではなく、ただの空白だった。敵は最後まで、何かを奪ったようで何も残していない。千尋は画面を見て、拍子抜けするほど静かな気持ちになった。 「終わった……?」 「まだだ」 沙耶が肩を落とした直後、廊下の向こうで朝を告げる放送が流れた。遅れた始業の知らせ。ついさっきまで危機だったのが嘘のように、どこか間の抜けた声だった。 梓がぽかんとする。 「ほんとに、戻るんだ」 彩乃が小さく笑った。 「戻る場所が、ちゃんとあるってことですね」 振り返ると、男はもういなかった。扉の前にも、廊下の先にも、その姿はない。ただ床に、例の乱暴な字で一枚だけ紙が残されていた。 自分で立て 千尋は紙を拾い上げ、少しだけ目を細めた。結局、彼の正体はわからないままだ。学園の人間なのか、外から来たのか、それとも別の何かなのか。けれど、もう確かめなくてもよかった。 数日後、学園には予想外なほど穏やかな日常が戻っていた。廊下では笑い声が増え、掲示板の前には委員会へ直接相談に来る生徒が列を作る。梓は以前より慎重に、だが迷わず指示を出し、沙耶は無茶をしそうになるたび自分で止まるようになった。彩乃は記録係のまま、誰よりも早く異変に気づく。 千尋は会議室の窓からその光景を見下ろし、静かに息を吐いた。 守る力は、最初から誰か一人のものではなかったのだと、今ならわかる。最も強かったのは、先生の腕でも、訓練でもなく、仲間を信じて最後まで手を離さなかった心だった。 そしてその心は、もう彼女たち自身のものになっていた。

検閲済みプロット

もし『ブルアカ』の対策委員会編一章に、先生役として範馬勇次郎のような圧倒的な存在感を持つ人物が現れたら、という前提で、学園の危機を軸にした物語を作ってください。暴力や威圧は直接的に描きすぎず、緊張感と師弟関係、仲間の成長を中心にしてください。

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