夏休みが終わった。ひなたは駅のホームで電車を待ちながら、自分の掌を見つめていた。一見、普通の女子大生の手。だが、その肌の下には、得体の知れない力が宿っている。 「ひなたちゃん、忘れ物ないね」 叔父が見送りに来てくれていた。あの夜のことは話していない。叔父も何も聞かない。 「うん、大丈夫。叔父さん、ありがとう」 「ひなたちゃん」 不意に、叔父が真剣な声で呼んだ。 「はい?」 「君が選んだ道が、どんな道であれ……後悔だけはしないでね」 ひなたは息を呑んだ。まさか、知っているの?叔父の言葉の真意を探ろうとしたが、彼はいつもの柔和な笑顔に戻っていた。 「機会があれば、またおいで」 電車が来る。ひなたは乗り込んだ。窓際の席に座る。腹の奥底で、じんわりとした熱を感じる。(呼べば、来る)眷属たちは彼女の呼び出しに応じる。その事実を胸に秘めながら、ひなたは日常へと戻った。大学のキャンパスは夏休み明けの喧騒に包まれていた。 「ひなたちゃん!夏休み、どうだった?」 友人の美咲が駆け寄ってくる。 「親戚の寺に。特に何もなかったよ」 「そういえば、ひなたちゃん、なんか雰囲気変わった?大人びたというか」 ひなたはドキリとした。化粧室で鏡を見る。一見、変わらない自分の顔。だが、瞳の奥に金色の光が揺らめいた気がした。(気のせい……だよね)講義が終わり、図書館へ向かう途中だった。背筋に冷たいものが走った。誰かの視線だ。振り返ると、一人の男子学生が彼女を見つめていた。眼鏡をかけた青年。 「君、もしかして……」 近づいてくる。 「君から、特別な気配を感じたもので」 ひなたの心臓が跳ねた。 「ここじゃなんだから、少し話さない?」 図書館の最奥で、彼は立ち止まった。 「僕の名前は、相沢涼。三年前に、ある呪物に触れてしまった」 「三年前……」 「君と同じだね。巻物、だったんだろう?」 彼は手の甲を見せた。薄っすらと紋様が浮かんでいる。ひなたの手にも同じものがあった。 「僕たちのような者は、互いにわかるんだよ」 「同じような人、他にもいるの?」 「ああ、意外と多いんだよ」 相沢は静かに微笑んだ。 「君はまだ目覚めたばかりだろう。教えてあげられることがある」 ひなたの腹の奥で熱が脈打った。眷属たちが蠢く。(落ち着いて) 「君の名前は?」 「……桜羽原ひなた」 相沢が差し出した手を握り返した。電流のような衝撃が走る。 「よろしく、ひなたちゃん」 新しい日常が始まる。眷属と、秘密と、新たな同類と共に。ひなたはまだ知らない。この出会いが、彼女の運命を更に大きく変えることを。
検閲済みプロット
桜羽原ひなたは夏休みを親戚の寺で過ごすことになり、様々な呪物のお祓いを手伝う。その中で、媚液を分泌する粘液生物や、白濁した体液を吐き出す触手を持つ異形を召喚する呪符が保管されていた。誤って呪符を暴走させたひなたは、召喚された異形たちに襲われ、翻弄され、何度も絶頂へ追いやられる。最終的に彼女はそれらを眷族として従える力を手に入れ、新学期を迎える。



















