エラベノベル堂

未来の寺、妖しい

18+ NSFW

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1章 / 全10

「お疲れ様でした!」 厨房から聞こえる声に手を振り、あかりは白いコートを脱ぎ捨てた。十二月三十一日、料理人として激務をこなし、ようやく実家の寺への帰省が叶う。新幹線を乗り継ぎ、見慣れた山道を登ると、夕闇に沈む山門が見えてきた。 「久しぶりね、由美」 山門をくぐると、義理の妹が不吉なほど美しい笑顔で立っていた。艶やかな黒髪、陶器のような肌。その瞳には、あかりには読めない深い闇が宿っている。 「お姉ちゃん、待ってた」 由美の声には、妙な響きがあった。 「蔵で面白いものを見つけたの。見てくれる?」 「蔵? 全然変わってないわね」 あかりは苦笑しながら由美の後を追う。蔵の中は埃っぽく、古びた仏具と線香の匂いが漂っていた。だが、由美が指差した先には、場違いな物が二つ、布の上に置かれていた。 「これ、見て。魔法の杖みたいでしょ? それと……これ」 由美が差し出したのは、奇妙な形をした聖具だった。淡い光を帯び、その形はどう見ても胡瓜に見える。 「何これ。何かの儀式に使うの?」 「お姉ちゃん、触ってみて。私には選べなかったの」 「選ぶって、何を?」 「触ればわかるよ」 由美の唇が不敵に歪む。その笑みに、あかりは不安を覚えながらも、手を伸ばした。杖の滑らかな感触と、胡瓜型の聖具の温かさが、同時に掌に伝わる。その瞬間、眩い光が視界を埋め尽くした。 「あ……っ!」 体が宙に浮くような浮遊感。内臓が裏返るような吐き気。そして、意識が暗転した。目を覚ましたとき、そこは見知らぬ世界だった。崩れ落ちた本堂、荒れ果てた境内、血のように赤い月。だが、最も衝撃的だったのは、その場所を彷徨う人影だった。 「ここ……どこ?」 彼らは生者ではない。だが、腐敗してもいない。美貌を保ったまま、空虚な瞳であかりを見つめる男たち。その数は十人を超える。 「うぅ……あ……」 喉から漏れるのは言葉ではなく、渇いた唸り声。だが、その視線だけは爛々と輝いていた。あかりの豊満な胸、くびれた腰、隆起した臀部を、飢えた獣のように舐め回すような視線。 「いや……来ないで」 あかりは後ずさりした。彼らはゾンビだ。だが、映画で見たような醜悪な姿ではない。彼らの渇きは、肉体への渇望ではなく、もっと別の何かに向けられている。あかりは本能的に理解した。この世界で彼らが求めているのは、破壊でも殺戮でもない。快楽なのだ。

1章 / 全10

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