眠れない夜は長い。美咲は何度も寝返りを打ち、ついには布団から這い出した。 「水でも飲もう」 廊下に出ると、古びた木の床が軋む音が響く。月明かりが差し込む廊下は、昼間の見慣れた風景とはまるで別物だった。 「叔父さんはもう寝ているかな」 声に出してみたのは、静寂が怖かったからだ。台所への道を思い出し、歩き出したその時だった。 「あれ……」 美咲の足が止まった。本来ならないはずの分かれ道に、微かな光が漏れている。 「ここ、何の部屋だっけ」 引き寄せられるように歩を進める。古びた引き戸の隙間から、青白い光が揺らめいていた。恐る恐る戸を開けると、そこは小さな納戸のような部屋だった。仏具や古い道具が雑多に置かれている。 「何これ」 部屋の中央に、一つの奇妙な物体が鎮座していた。古びた電動マッサージ器だった。 「こんな場所に、どうして」 美咲は首を傾げた。昭和の匂いがするその機械は、どこか異様な存在感を放っている。手を伸ばしかけた時だった。 「見つけたよ」 背後から声がした。美咲は弾かれたように振り返った。誰もいない。だが、確かに声が聞こえた。 「やっと来たね」 今度は左耳元で囁かれた。 「ひっ」 美咲は悲鳴をあげようとしたが、声が出ない。足がすくんで動かない。闇の中から、ぼんやりとした影が浮かび上がってきた。一人、また一人。老若男女、様々な姿をした影たちが、ゆっくりと包囲するように近づいてくる。 「美咲ちゃん、待っていたよ」 「叔父さん……? いや、違う」 影たちは一様に恍惚とした表情で彼女を見つめていた。うっとりとした、どこか淫らな視線だった。 「その子はが選ばれたのね」 「特別な儀式をしましょうね」 美咲は後ずさりしようとしたが、壁に背がついていた。 「逃げないで。怖がらないで」 影の一人が、美咲の耳元に唇を寄せた。 「不幸を消してあげるから」 その言葉は、甘い毒のように鼓膜を侵していった。
儀式の果てへ
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