エラベノベル堂

君という宝石へ

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1章 / 全10

午後三時を回った頃、カウベルの音が店に響いた。健二が顔を上げると、見慣れた姿が入り口に立っている。 「里奈ちゃん、久しぶりだね」 いつもなら明るく笑って答えるはずの幼馴染は、今日に限って力なく俯いたまま。 「ごめん、急に来ちゃって」 「いや、いいよ。お客さんも少ないし、ゆっくりしていって」 健二はカウンターの奥から席を指し示す。里奈はよろめくように歩き、一番奥のボックス席に滑り込んだ。その顔色は悪く、目の下には薄っすらと隈が浮かんでいる。健二はブレンドコーヒーを淹れて、彼女の前に置いた。 「ありがとう……」 震える指でカップを持ち上げる里奈を見て、健二は胸が締め付けられる思いだった。 「何かあったのか?」 里奈はしばらく沈黙し、やがてぽつりと話し始めた。 「前の職場の上司なんだけど……志郎さんが、ずっと付きまとってくるの」 「ストーカーってやつか」 「そうなると思う。電話もメールも毎日、辞めてからも続いてる。警察にも相談したけど、警告だけじゃ効果がなくて」 里奈の瞳が潤む。 「デザインの仕事、諦めようかって思ってたんだ。でも、どうしても諦めきれなくて……来月、新人発掘のコンペがあるの。それに出したいけど、今の状態じゃ準備もままならないし」 健二はカウンターに肘をつき、じっと彼女を見つめた。 「里奈ちゃん、そのコンペ、全力で挑みたいか?」 「うん。でも今の私じゃ無理だと思う」 「なら、俺がバックアップする」 里奈が驚いて顔を上げる。 「え?」 「店の二階が空いてる。そこで作業すればいい。俺も暇な時間は手伝えるし、何かあったらすぐ対処できる」 里奈の目から涙がこぼれた。 「健二くん……いいの?」 「幼馴染だろ。困ったときは助け合うのが当たり前だ」 里奈はハンカチで涙を拭い、小さく微笑んだ。 「ありがとう。本当に、ありがとう」

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