カフェの席で、カイトはひとり待っていた。約束の時間を三過ぎた頃、自動ドアが開く音がして、華やかな色気場が流入してくる。振り返るまでもなかった。銀髪のウィッグは外しているが、端正な顔立ちは動画と同じだ。リナは店内を見渡し、カイトを見つけると小走りで近づいてきた。 「お待たせしてすみません!カイトさんですよね?」 明るい声。屈託のない笑顔。カイトは無表情のまま頷く。 「ああ。座ってくれ」 リナは向かいの席に滑り込み、メニューを手に取りながら矢継ぎ早に話し始めた。 「動画の件なんですけど、今回は特別な企画で……あ、ここのラテ、すごく美味しいんですよ」 カイトは彼女を観察した。厚化粧はしていない。だが、目の下に薄っすらとクマがある。無理に明るく振る舞っている緊張感が、痛いほど伝わってきた。 「……携帯、見なくていいのか」 カイトの言葉に、リナの手が止まる。 「え?あ、ごめんなさい」 彼女はスマホをテーブルに置いた。その瞬間、画面が光る。通知が表示された。リナの視線が画面に落ちる。凍りついたように動かなくなる。カイトは反射的にテーブルに身を乗り出した。画面に映った文字は見えなかった。だが、リナの表情の変化は見逃さなかった。笑顔が消えた。瞳が揺れる。唇が震える。 「……なんでもないです」 彼女はスマホを裏返し、無理やり笑顔を作った。 「それで、動画の話ですけど」 その演技の下手さに、カイトは胸が締め付けられた。三年前、チャットルームで泣き崩れていた少女。顔も名前も知らなかった。だが、今、目の前にいる。同じ痛みを抱えている。確信が胸に満ちる。彼女だ。助けたあの少女だ。 「リナ」 カイトは彼女の名を呼んだ。 「ん?なんでしょう」 不安を押し殺した声。 「……無理はするな。編集は俺がなんとかする」 沈黙が流れた。リナの瞳が潤む。 「……ありがとうございます」 小さな声だった。カイトは視線を外し、窓の外を見た。彼女を守る。その決意が、より確かなものになっていく。
謝罪ごっこ
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