疲れ切った体を引きずるようにアパートの階段を登り、錆びついたドアの前に立つ。鍵を取り出そうとした瞬間、ドアが内側から勢いよく開いた。 「おかえり、誠くん!」 甲高い声とともに飛び出してきたのは、田舎で一緒に育った幼なじみの舞子だった。スーツケースを背後に隠すようにして、彼女は満面の笑みを浮かべている。 「……なんでお前がここにいるんだよ」 誠は深いため息をついた。 「もう帰れ」 そんな冷たい態度もお構いなしに、舞子は胸の前で手を組んだ。 「だって誠くん、一人暮らしじゃ寂しいでしょ?お母さんにも言われたの。誠くんのこと頼むって」 「頼むって……お前、勝手に来るなよ」 誠は頭を抱えた。舞子の強引さは昔から変わっていない。押し問答の末、結局彼女を追い出すことはできず、その夜から奇妙な同居生活が始まった。翌朝、誠が浴室から出ると、舞子がリビングで着替えている最中だった。 「わっ、ダメだよ入ってこないで!」 彼女は慌てて肌着で体を隠すが、一瞬、白い肌とふくよかな曲線が目に焼き付いた。 「お前がドア開けとくのが悪いんだろ」 誠は顔を背けながら言ったが、心臓が早鐘を打っていた。幼なじみだとわかっていても、男として意識してしまう。夜、布団のなかで誠は天井を見上げながら考えていた。舞子の献身的な家事や温かい料理に感謝しつつも、狭い部屋で男女二人が暮らすことの弊害を感じ始めていた。隣で寝息を立てる舞子の存在が、妙に気になる。 「誠くん、起きてる?」 不意に彼女が囁いた。 「……なんだよ」 「なんでもない。ただ、昔みたいに一緒にいられて嬉しいなって」 その言葉に誠は何も返せなかった。舞子の想いは純粋だ。だが、この同居生活が波乱を呼ぶ予感がしてならなかった。
君が選んだ戻れない場所
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