祖父が亡くなってから、書斎はずっと扉の閉ざされたままだった。遥華は遺品を分けるために中へ入っただけで、そこに並ぶ本棚を見上げた瞬間、胸の奥が少し固くなるのを感じた。背筋の伸びた祖父が座っていそうな気配だけが残っていて、埃の薄い匂いまで妙にきちんとしている気がした。 箱をひとつ空け、古い領収書や文房具を寄せていくうちに、本棚の奥に不自然なくぼみがあるのに気づいた。指先で背表紙を押すと、内側に隠れていた薄い束がするりと落ちてくる。紙は年季を帯び、端が少し黄ばんでいた。表紙に並ぶ題名は、祖父の厳格な横顔とどうしても結びつかない。遥華はその場で息を止めた。 ページをめくる。そこに綴られていたのは、胸の奥を熱くさせるような、大人向けの官能小説だった。言葉はあまりに率直で、遥華の頬が思わず熱くなる。けれど、ただ下品だと切り捨てるには、文章が妙に整っていた。登場人物の目線の揺れや、言い淀む間の空気まで伝わってきて、ページを閉じる手が止まる。 祖父は、こんな本を持っていたのか。厳しくて、几帳面で、冗談ひとつ言わない人だった。食卓でも姿勢を崩さず、家族の前ではいつも静かな判定者のようだった。その人が、こんなにも熱のある物語を本棚の奥に隠していたなんて、遥華には信じがたかった。 もう一冊、さらにその下から一冊。束は思ったより厚い。年代も装丁もばらばらで、誰かが大事にしまい込んだのだと分かる。遥華はページをめくるたび、驚きと好奇心のあいだで揺れた。祖父への印象が崩れていくのに、なぜか嫌悪より先に、知りたいという気持ちが膨らんでいく。 書斎の窓から差す午後の光が、本の紙を淡く浮かび上がらせていた。遥華は束を胸に寄せたまま、しばらくその場を動けなかった。
祖父の書斎で見つけた秘密
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