遥華は胸に抱えた束を、いったん机の上にそっと置いた。紙の重みは思ったより現実的で、さっきまでの動揺を少しだけ落ち着かせる。けれど、落ち着いた途端に別の違和感が浮かび上がった。こんな本を、祖父はどうしてわざわざ書斎の奥に隠したのだろう。 厳格で、几帳面で、無駄を嫌う人だった。庭の植木ひとつにまで目を配り、新聞の折り目さえきちんと揃えていた祖父が、こんな奔放な物語を並べていた姿は想像しにくい。だが、だからこそ隠したのだとしたら、と遥華は思い直した。見つけてほしくなかったのか、それとも見つけた者にだけ分かるようにしていたのか。 一冊を開く。言葉は率直で、頬が熱くなるほどに生々しいのに、ただ刺激だけを追っているわけではなかった。会話の間合い、視線の逸らし方、触れ合う直前の迷いが、妙に丁寧に積み重ねられている。遥華はそこに、乱暴な勢いではなく、細やかな計算のようなものを感じた。 次の本は装丁も紙質も違った。さらにもう一冊は、登場人物の名前の付け方までどこか癖がある。似たような場面を扱っているのに、空気は少しずつ異なっていて、書き手の手触りがはっきり見えるようだった。祖父はただ集めただけではない。似たような物語を、わざわざ選び分けていたのだ。 遥華は本棚を見上げた。普段は目に入らない奥まった段にまで、種類の違う背表紙がきっちり詰め込まれている。順番にも何か意図があるのかもしれない。背の高さ、紙の古さ、題名の硬さまで揃え方に癖があり、そこには乱雑さよりも、むしろ強いこだわりが感じられた。 部屋の静けさの中で、祖父の気配だけが少し形を変えて残っているようだった。遥華は本を閉じ、指先で表紙をなぞる。厳しい人だったからこそ、こんな世界を密かに大切にしていたのだろうか。そう考えると、胸の奥の混乱はまだ消えないまま、それでも知りたい気持ちが静かに深くなっていった。
祖父の書斎で見つけた秘密
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