遥華は本を机の端に並べ直し、表紙の違いを指先でたどった。似ているようでいて、どれも温度が違う。淡々とした書き出しのものもあれば、最初から空気がきしむように張りつめたものもある。読み比べているうちに、ただの刺激ではなく、登場人物どうしの駆け引きが目に入るようになった。 言葉を飲み込む間合い、わざと視線を外す沈黙、相手のひと言で表情がほどける瞬間。そういう細かな揺れが、思っていた以上に面白い。遥華は顔を赤くしながらも、ページを閉じる気になれなかった。熱っぽい場面そのものより、その前後で心が揺れる様子のほうが胸に残る。触れそうで触れない距離が、かえって人の気配を濃くしていた。 一冊目で驚き、二冊目で少し構え、三冊目でようやく読み方が分かってきた。追いかけるのは大胆な言葉だけではない。そこに至るまでの迷いと、踏み出したあとに残る余韻なのだと気づくと、ページの奥に広がる景色が少し変わって見えた。祖父の棚から出てきた本は、どれも同じようで同じではなく、その違いを見分けるたびに、自分の読書が一段ずつ広がっていく感覚があった。 遥華は窓際へ目をやった。午後の光は少し傾き、紙の白さをやわらかくしている。書斎の静けさの中で、誰にも教わったことのない読み方を、ひとりで拾い集めている気がした。祖父のことはまだ分からない。それでも、こんな本を通して見えてくる感情のかたちは、思っていたよりずっと繊細で、ずっと人間くさかった。 遥華は最後にもう一度ページへ視線を落とした。次はどれを開こうかと、自然に指先が別の背表紙へ伸びる。
祖父の書斎で見つけた秘密
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